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対象:特許・商標・著作権
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米国特許判例紹介 (第1回)
方法クレームを複数当事者が分割実施した場合に侵害が成立するか
~寄与侵害に関する大法廷判決~
河野特許事務所 2012年11月19日 執筆者:弁理士 河野 英仁
Akamai, Inc., et al.,
Plaintiff-Appellant,
v.
Limelight, Inc., et al.,
Defendant Cross-Appellant.
1.概要
方法クレームの各ステップを一の当事者が実施した場合、直接侵害が成立する。一方、一の当事者が一つのステップを除くすべてのステップを実施し、最後の一ステップを他の当事者が実施した場合、侵害が成立するであろうか。また、方法クレームの各ステップを複数人にて実施した場合、侵害が成立するであろうか。
CAFCの過去の判例では、一の当事者が他の当事者に残りのステップを実施するよう指示または管理していない限り、直接侵害が成立しないと判断されていた。また、直接侵害が存在しない以上、間接侵害の適用もないと判断されていた。
当該争点について大法廷[1]にて争われることとなった。CAFC大法廷は、立法経緯、一般不法行為の法理及び過去の判例を総合的に考慮し、上述したケースでは、米国特許法第271条(b)に基づく、寄与侵害が成立すると判断した。
2.背景
(1)Akamai事件
Akamaiはコンテンツ配信サービスと称するU.S. Patent No. 6,108,703等を所有している。争点となったクレーム19は以下のとおりである。
19.コンテンツ配信サービスであり以下を含む:
コンテンツプロバイダのドメイン以外のドメインにより管理されるコンテンツサーバの広域ネットワークにわたって一組のページオブジェクトを複製し、:
コンテンツプロバイダドメインから通常提供される所定のページのために、ページオブジェクトの要求が、コンテンツプロバイダドメインの代わりに、前記ドメインに転換するよう、前記ページの埋め込みオブジェクトをタグ付けし、:
コンテンツプロバイダドメインにて受信した前記所定のページへの要求に応答して、前記コンテンツプロバイダドメインから、前記所定のページを提供し、:
前記コンテンツプロバイダドメインからとする代わりに、前記ドメインにおける所定のコンテンツサーバから前記所定のページの少なくとも一つの埋め込みオブジェクトを提供する。
2006年6月23日Akamaiは競合関係にあるLimelightが特許権を侵害するとして、マサチューセッツ州連邦地方裁判所に提訴した。下線を付したタグ付け処理は、顧客であるコンテンツプロバイダが実行していることから、Limelightがクレームの全てのステップを実施していないことについては当事者間で争いはない。
そのためAkamaiはクレーム19に対する共同侵害を主張したが、地裁及びCAFCは、Limelightのコンテンツプロバイダに対する指示または管理がなかったとして特許非侵害の判決をなした。
方法クレームの各ステップを複数人が実行した場合の判断はBMC事件[2]により確立されている。
BMC事件で問題となった特許はU.S. Patent No. 5,870,456(456特許)である。これらは暗証番号を入力することなく、金融決済を可能とするビジネスモデル特許である。参考図1は298特許の決済システムを示す説明図である。
参考図1 298特許の決済システムを示す説明図
298特許のクレーム6は以下のとおり。
6.(a)被支払人の代理人のシステムを介して、少なくとも一つの遠隔支払いカードネットワークに接続された電話回線網を用いた料金支払い方法であって、発話人は被支払人への自発的な支払い取引を開始すべく、前記電話機回線網を用いてセッションを開始するものであり、以下のステップを含む:
(b)発話人に対し、クレジットまたはデビットのいずれかの支払い番号を入力するよう促進する;
(c)発話人に支払い取引のための支払金額を入力するよう促進する;
(d)前記入力された支払い番号に関する遠隔支払いネットワークにアクセスする;
(e)前記アクセスされた遠隔支払いネットワークはセッションの間に下記決定を行う、
(f)支払い取引を完了するために、十分に利用可能な信用または金額が支払い番号に関する口座に存在するか否か;
(g)十分な信用または金額が存在すると判断した場合、
(h)入力された支払い番号の口座に対し入力された支払金額を課金する;
(i)入力された口座番号に関する口座(被支払人の口座)に入力された支払金額を加算する;and
(j)口座番号、支払い番号及び支払金額をシステムの取引ファイルに記憶する.
BMC事件における被告は全てのステップを実施しているわけではない。被告、及び、金融機関を含むデビットネットワークにより共同で方法クレームを実施しているのである。例えば、
クレームの一部の構成要件(e)~(h)はデビットネットワークが実施する行為である。
BMC事件においては、複数の当事者が共同で方法クレームを実施している場合に、共同侵害が成立するか否かが問題となった。侵害が成立するためには、被告が方法クレームの全ての構成要件を実施していることが必要とされるのが原則である。その一方で、当該原則を貫くと、ある構成要件を、意図的に第三者に実施させることにより、直接侵害の責を逃れ得るという法の抜け穴が生じてしまう。
CAFCは直接侵害に係る当該原則と、これに対する例外との法バランスを考慮した上で、被告及び第三者による共同実施に基づく直接侵害が成立するためには、
「被告が第三者に対し方法クレームの各ステップの実施に関し管理または指示」
を行っていることが必要と判示したのである。
(2) Mckesson事件
Mckessonはプロバイダと病人との間の電子通信方法をカバーする特許を所有している。MckessonはEpicを寄与侵害に当たるとして提訴した。Epicは、ソフトウェアをヘルスケアプロバイダにライセンスするソフトウェア会社である。ライセンスされたソフトウェアは、“MyChart”というアプリケーションを含む。これは、ヘルスケアプロバイダが患者に対し電子的に通信することを許可するものである。
Mckessonは、Epicが、Epicの顧客にMckesson特許を侵害するよう誘発したと主張した。Epic社はいかなる特許のステップをも実行していないが、代わりにこれらのステップは、通信を開始する患者らと、残りのステップを実行するヘルスケアプロバイダとの間でそれぞれ行われている。
Mckesson事件において、地裁及びCAFCは、Epic社の直接の顧客ではない患者が通信を開始するステップを実行したことから、特許権侵害が成立しないと判断した。
[1]大法廷(en banc:オンバンク)。事件の重要性に鑑み、裁判官全員によるヒアリングが行われる。
[2] BMC and Muniauction, Inc. v. Thom-son Corp., 532 F.3d 1318 (Fed. Cir. 2008)
(第2回へ続く)
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