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対象:特許・商標・著作権
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中国特許判例紹介:中国における職務発明の認定
~退職後の発明創造が職務発明に該当するか~
河野特許事務所 2012年11月16日 執筆者:弁理士 河野 英仁
杜文龍
上訴人、原審被告
v.
広州市雅内家居用品有限公司
被上訴人、原審原告
1.概要
中国においても職務発明に関する規定が専利法第6条に規定されている。
第6条
所属機関または組織(単位)の任務を遂行しまたは主として所属機関または組織の物的技術的条件を利用して完成させた発明創造は職務発明とする。職務発明の特許出願する権利はその機関または組織に帰属し、出願が許可された後は、その機関または組織が特許権者となる。
特許権の帰属を巡る訴訟は中国でも多く、特に本来の業務とは別に発明創造がなされた場合、或いは、退職後に発明創造がなされた場合に、その発明創造が職務発明に該当するか否かを巡り争いとなることが多い。
本事件では管理者である被告が退職後に出願し権利化した特許権の帰属を巡り争いとなった。高級人民法院は、被告が現実に製品の設計及び開発に関与していたことに鑑み、当該発明創造を職務発明と認定した[1]。
2.背景
(1)特許の内容
杜文龍(被告)は2007年11月29日、抱き枕に関する外観設計特許出願を行った。本出願は2009年3月11日に公告され特許が成立した。特許の名称は抱き枕(木製ビーズ)であり,特許番号は200730319803.4(以下、803特許という)である。参考図1は803特許の平面図及び側面図である。
参考図1 803特許の平面図及び側面図
(2)訴訟の経緯
雅内公司(原告)は2005年3月24日に設立され、主に紡績品の設計、生産及び販売を行っている。被告は原告に入社し仕事を開始した。被告は戦略部の担当責任者となり,当該部門の日常的な管理業務を行っていた。その間被告は製品(サンプル)の買い付け、審議、業務支援に関与していた。
例えば、2006年9月に“301抱き枕(オレンジ)45×45cm,チャックが表に出ないタイプ”、“304抱き枕(ローズ色)55×55cm,チャックが見えるタイプ”、“501抱き枕(赤色),45×45cm,チャックが表に出ないタイプ”等の製品の設計図を書いていた。2007年11月1日、被告は個人的な理由により辞職を申し立て、12日に社長の許可を得て2007年11月15日に退社した。
退社日14日後の2007年11月29日、被告は知識産権局に803特許の出願を行い、外観設計特許権を取得した。
原告は、2010年11月25日、被告が退社後に取得した803特許は職務発明に該当し、原告が803特許の特許権者であることを求めて、広東省江門市中級人民法院(以下、中級人民法院)に提訴した。中級人民法院は退社後になした発明創造は職務発明であると認定し、原告の訴えを認める判決[2]をなした。被告はこれを不服として広東省高級人民法院(以下、高級人民法院)に上訴した。
3.高級人民法院での争点
争点: 被告が退職後になした発明創造が、専利法に規定する職務発明といえるか否か?
原告は、主として卸売り及び小売り貿易をメインのビジネスとしている。また、被告は原告の業務支援部に所属し、製品の販売及び普及活動を行っていた。被告は争点となった木製ビーズの設計を原告から業務として命じられていなかった。このような状況下で、退職後に出願した発明創造が、職務発明に該当するか否かが問題となった。
4.高級人民法院の判断
被告の発明創造は原告の物質的技術的条件を利用してなされたものである。
高級人民法院は、退職後に被告が知識産権局に出願した発明創造は職務発明であると判断した。
職務発明に関しては、専利法第6条及び実施細則第12条に詳細な規定が存在する。
専利法第6条第1項は以下のとおり規定する。
第6条
所属機関または組織(単位)の任務を遂行しまたは主として所属機関または組織の物的技術的条件を利用して完成させた発明創造は職務発明とする。職務発明の特許出願する権利はその機関または組織に帰属し、出願が許可された後は、その機関または組織が特許権者となる。
実施細則第12条は以下のとおり規定している。
第12 条
専利法第6 条にいう、所属機関または組織の任務執行中に完成した職務発明とは、以下のものをいう。
(1)本来の職務の中でなした発明創造。
(2)所属機関または組織から与えられた本来の職務以外の任務を遂行する中でなした発明創造。
(3)定年退職、元の所属機関から転職した後または労働や人事関係が終了後1 年以内になしたもので、元の所属機関または組織において担当していた本来の職務または元の所属機関または組織から与えられた任務と関係のある発明創造。
専利法第6 条にいう所属機関または組織には、一時的に勤務する機関または組織も含まれる。専利法第6 条にいう所属機関または組織の物的技術的条件とは、所属機関または組織の資金、設備、部品、原材料、または対外的に公開していない技術資料などをいう。
(1)原告の経営範囲
被告は、原告の経営範囲は卸売り及び小売り貿易であり、争点となった木製ビーズの設計及び開発とは無関係であると主張した。これに対し、高級人民法院は、原告はリビング製品の設計、生産、販売を行う会社であると認定し、被告の主張を否定した。
原告の営業許可証には、経営範囲として“卸売り及び小売り貿易”と記載されており、製品の設計及び生産は含まれていない。しかし、被告は原告の在職期間において,抱き枕等の製品(サンプル)の買い付け、審議、業務支援に関与しており、原告も実際に木製ビーズシリーズ製品を販売していた。
また訴外浙江天台県坦頭金源工芸場から木製ビーズ製品の品質に関しクレームを受けた際、FAXを送り、当該木製ビーズ製品の品質問題に関し連絡を取っていた。以上のことから、高級人民法院は、原告の実際の経営範囲は、木製ビーズの設計、生産及び販売等を含むと判断した。
(2) 所属機関または組織の物的技術的条件を利用して完成させた発明創造
被告は原告での業務期間において,かつて買い付け部、マーケティング部、戦略部等の部門についていた。上述したクレーム処理に関するFAXにおいても,被告の署名が記載してあり、木製ビーズ品の品質問題に対し、フィードバック意見を送信している。
マーケティング部副部長の陳述によれば、原告マーケティング部は製品の設計、開発等の業務を行っており,被告は当該部門の責任者として,原告の製品の設計、開発等の業務を熟知していた。
高級人民法院は、被告が完成した訴訟に係る発明創造は自身の担当する職務ではなく、また所属機関・組織が与えた任務を実行したものでもないが、原告独自の資源及び物質技術条件を使用して完成したものと認定した。例えば被告は業務を利用し非常に多くの時間、木製ビーズ製品の設計、開発に接触しており,当該製品に存在する品質問題及び消費市場のニーズ及び好みを把握していた。
高級人民法院は、当該発明創造は被告自身の知識及び才知に基づき創作されたものであるが、主に原告の物質的技術的条件を利用しており、原告の経営範囲内の製品であることから、退職後14日後の発明創造は職務発明であると認定した。
5.結論
高級人民法院は、職務発明に該当すると判断した中級人民法院の判断を支持する判決をなした。
6.コメント
本事件では、原告が被告に直接設計を命じたものではなく、また退職後になした発明創造ではあるが、被告が主に原告の物質的技術的条件を利用したことから、高級人民法院は、最終的に職務発明であると認定した。
中国では日本と異なり、退職後の発明創造については、実施細則第12条にて退職後1年という明確な線引きを行っており、本事件でも被告の出願日から職務発明であると判断した。転職社会である中国では職務発明に関する民事訴訟が非常に多く、中国現地で発明創造が生まれる可能性のある日本企業にとっては十分な注意が必要である。
判決 2011年12月15日
以上
[1] 2011年12月15日広東省高級人民法院判決(2011)粤高法民三终字第555号
[2]広東省江門市中級人民法院判決 (2010)江中法知初字第120号
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