事業承継とM&Aの手続 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
弁護士

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:事業再生と承継・M&A

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

事業承継とM&Aの手続

- good

  1. 法人・ビジネス
  2. 事業再生と承継・M&A
  3. 事業再生と承継・M&A全般
相続

第2章 M&Aの手続

 

 M&Aは、以下の流れに従って行われるのが一般的です。

1

M&A目的の明確化

2

M&A対象会社の選定

3

M&A対象会社への打診

4

基本合意書(Letter of Intent)の締結

5

デューディリジェンスの実施

6

本契約の締結

7

本契約の履行(いわゆるクロージング・代金の支払、引渡し)

 

1 M&A目的の明確化

 M&Aの方向性としては、一般的には水平型M&A、垂直型M&A、多角化型M&Aの3つがあります。どの方向性で事業承継を実現するのか決定し、対象企業を絞り込む必要があります。

(ⅰ)水平型M&A

 水平的M&Aとは、自社と同種の製品を提供している企業に買収してもらうことで、買い手企業はより広い販売網の獲得や、その製品の市場占有率を高めることができます。このM&Aを行う場合には、自社の製品と同種の製品・サービスを提供している企業を探すことになります。

(ⅱ)垂直型M&A

 垂直型M&Aとは、自社の製品に関して異なる生産段階や販売段階の取得を目的とするM&Aです。例えば、ある製品の販売・営業を行っている会社は、その製品を生産している会社から製品を購入しているわけですが、この生産会社を買収することで、取引コストを抑えることが可能になります。★このような買い手企業にとってのM&Aのメリットを売りにして、事業の承継先を見つけるとよいでしょう。このM&Aを行う場合には、自社の製品の生産ルートまたは販売ルート上の会社を探すことになります。この場合、自社内に重複する部門があるかどうかのリサーチも重要となります。

(ⅲ)多角化型M&A

 多角化型M&Aとは、現在の事業とは異なる分野の事業に進出して、経営の多角化を図るM&Aをいいます。経営の多角化のメリットは、複数の事業を保有することで会社が倒産するリスクを分散できることや、複数の事業の相乗効果によってより多くの利益を挙げられる場合があることです(いわゆるシナジー効果)。★このような買い手企業にとってのM&Aのメリットを売りにして、事業の承継先を見つけるとよいでしょう。このM&Aを行う場合には、自社の事業とは異なる事業を行う会社を探すことになります。リスク分散のみを目的とするのならば、ある程度どの事業の会社でもよいことになりますが、相乗効果を目的とするならば、自社の事業とある程度関連する事業の会社を探すことになります。

2 M&A対象企業の選定

 M&Aの目的・方向性が決まったならば、それに見合った企業をM&A対象企業として探さなくてはなりません。対象企業の選定にあたっては、その企業に関する様々な情報を取得して、その上で総合的に判断していくことになります。では、その際に具体的にどのような情報をどのように収集すればいいのでしょうか。

(1)収集する情報

①財務に関する情報

・当該会社の預金額(その中で拘束預金はどの程度あるか)

・当該会社の売掛債権額(回収できる可能性も含めて)

・その他会社の資産(不動産・知的財産権等)

・当該会社の買掛債務額(支払期限・支払条件・利息等も含めて)

・銀行等からの借入金の有無(期限・利息等)

・手形に関する法律関係(未決済手形はあるか、不渡りの危険性等)

・その他会社の負債

・含み益、含み損

・在庫に関する情報(原材料・部品・製品の在庫はどのくらいあるか)

・納税に関する情報(滞納していないか、追徴課税されたことがないか)

②会社全体に関する情報

・製品の収益性、将来性

・新製品の開発力(新製品のアイデアが社長に依存しているか)

・市場占有率(マーケットシェアー)

・業界全体に関する規制、将来性

・社会的イメージの良し悪し(ブランド)

・従業員の就業規則等労働条件、労使関係、労使紛争等がないこと等

③法務に関する情報

・訴訟を起こされていないか(製造物責任訴訟等)あるいは起こされる可能性

・会社資産は誰の名義で登記、登録されているか(社長の個人名義で登記されていないか)

・事務所の賃貸借契約の内容

・大株主が変更しても、知的財産権の許諾契約、代理店契約、フランチャイズ契約は継続可能か

その他

(2)情報収集方法

 上場企業と店頭登録企業は、金融商品取引法等により、その企業に関する情報開示が要求されているので、比較的容易に情報収集することが可能です。しかし、より詳細な情報が欲しい、または上場企業等の会社以外の会社の情報が欲しい、という場合には、監査法人や公認会計士、弁護士等とアドバイザリー契約を締結して、相手方企業の情報収集を依頼する、という方法があります。

 アドバイザリー契約とは、M&Aの仲介をするアドバイザーとの契約で、会社評価、分析、M&A候補先の検索、社長同士の面談のセッティング、各種契約書の作成等を引き受ける契約をいいます。アドバイザーは商工会議所に登録している者もおり、商工会議所に相談(無料)することでアドバイザーを紹介してもらえます。商工会議所は全国に500以上あります。

(3)相手方企業の選定

 上記の情報が集まったならば、複数の企業の中で、どの企業が自社のM&Aの目的に合致するのかをリストアップします。その際は、M&A成功の見込みの高い企業をリストアップすべきです。成功の見込みの高い企業とは、自社の持っている強みを持っておらず、自社とM&Aをすることにより、相手方企業にとってもメリットのある企業です。そして、その判断のためには他社の情報のみならず、自社の情報も分析して、自社の強みが何であるのかも把握しておく必要があります。自社の情報分析のためには、上記(1)で挙げたような情報を活用することが考えられます。

(4)企業価値の磨き上げ

 事業承継では、自社をできるだけ高い価格でM&Aの対象とするため、いわゆる企業価値の磨き上げをしておく必要があります。すなわち、会社の財務状況を健全透明にしておくことはもちろんのこと、機関構成や業務プロセスを整理し企業価値を高めておくべきでしょう。また、オーナー企業では、しばしば財務的に公私が混同されているケースがあります。この点もM&A対象企業からすれば、消極的に評価されてしまうおそれがありますので、権利関係も含めてあらかじめ整理しておくとよいでしょう。

3 M&A対象会社への打診

 その企業との関係でM&Aをする、という方針が決定したならば、その企業と接触して相手方のM&Aに対する意思を確認しなければなりません。このように、相手方企業とのファーストコンタクトの目的は、相手方のM&Aの意思の有無を確認することです。そのためには、自社の意思が基本的にどのようなものなのかを相手方に示さなくてはなりません。そこで、以下の点を提示します。

(ⅰ)買収価格がいくらであるのか

(ⅱ)いかなる手段を用いてM&Aを行うのか(合併、事業譲渡、株式取得等)

(ⅲ)役員や従業員の処遇はどうなるのか

 

 

このコラムに類似したコラム

自社株の相続税・贈与税がゼロになる!? その2 大黒たかのり - 税理士(2018/03/27 10:10)

12月12日17時よりあすめし会、事業承継セミナー 平 仁 - 税理士(2012/12/05 19:11)

事業承継と相続する自社株式の株価対策 村田 英幸 - 弁護士(2012/10/11 13:39)