中国における特許権侵害行為及び損害賠償額の認定 (第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国における特許権侵害行為及び損害賠償額の認定 (第1回)

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中国特許判例紹介:中国における特許権侵害行為及び損害賠償額の認定 (第1回)

~エアコン制御方法特許権侵害訴訟事件~

河野特許事務所 2012年8月3日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

                             珠海格力電器股份有限公司

                                                      被上訴人、原審原告

                                     v.

                             広東美的制冷設備有限公司

                                                       上訴人、原審被告

 

1.概要

 本事件では空調機の設定及び制御方法について特許が付与されており、被告が特許に係る方法の使用者に該当するか否か、均等論上の侵害に該当するか否か、及び、損害賠償額をどのように決定するかが問題となった。

 広東省珠海市中級人民法院は均等論上の被告の侵害を認め、専利法第65条第2項に規定する法定賠償額を超える200万元(約2500万円)の損害賠償を被告に命じる判決をなした[1]。被告はこれを不服として上訴したが広東省高級人民法院はこれを維持する判決をなした[2]。

 

 

2.背景

(1)特許の内容

 格力公司(以下、原告)は“ユーザ定義曲線に基づく空調器実行制御方法”と称する特許ZL200710097263.9(以下、263特許という)を所有している。263特許は、2007年4月28日に出願され、2008年9月3日特許が付与された。

 

 争点となった請求項2は以下のとおりである。

2、ユーザ定義曲線に基づく空調器実行制御方法において,前記空調器はメインユニット及びリモコンを備え,前記方法は以下のステップを含む:

前記リモコン上のキーボードを通じて、ユーザ定義曲線を設定し;

設定完了後,前記リモコンは既に設定したユーザ定義曲線データを、前記リモコン内の記憶チップ中に記憶し;

前記リモコンの赤外信号発射ユニットを通じて、前記ユーザ定義曲線データをコードフォーマットに基づき前記空調器メインユニットの赤外信号受信ユニットへ送信し;

前記空調器メインユニットの赤外信号受信ユニットは、ユーザ定義曲線データを、前記空調器メインユニットのMCU制御チップ内のRAM中に保存し,その後MCU制御チップにより、RAM中のユーザ定義曲線データに基づき、相応の時間帯に予め定めた実行パラメータを設定し,かつ前記実行パラメータを通じて、前記空調器メインユニットを制御して相応の運転をし;

前記ユーザ定義曲線はユーザ定義睡眠曲線であり,前記リモコンは時間間隔で時間どおりに行う機能を有するリモコンであり,前記ユーザ定義睡眠曲線を設置するステップは以下のステップを含む:

ユーザはユーザ定義設定状態に入り;

リモコンは前回設定した睡眠曲線の第一の1時間の時間間隔内の対応する温度を表示し,ユーザが温度を変える必要がない場合,直接確認し,リモコンは該時間間隔内で該温度を保持し;

ユーザが温度を変える必要がある場合,該温度を必要な第一設定温度に調節し,リモコンは該時間間隔内で第一設定温度を保持し;

続いて,リモコンは自動的に1時間増加し,かつ前回設定した睡眠曲線の第二の1時間の時間間隔内の対応する温度を表示し,ユーザは温度を変える必要がない場合,直接確認し,リモコンは第二の1時間の時間間隔内該温度を保持し;

ユーザが温度を変える必要がある場合,該温度を必要な第二設定温度まで調節し,リモコンは前記第二の1時間の時間間隔内第二設定温度を保持し;

上述の温度設定ステップを繰り返して全睡眠時間帯の温度設定を完成させ,これにより前記ユーザ定義睡眠曲線の設定を完成させる。

 

 参考図1は263特許のハードウェア構成を示すブロック図である。参考図2はユーザ定義睡眠曲線を示すグラフである。

 

参考図1 263特許のハードウェア構成を示すブロック図

参考図2 ユーザ定義睡眠曲線を示すグラフ

 

リモコンの主チップ12は記憶チップ13から前回記憶した設定温度を読み出し、表示ユニット14に表示する。ユーザはリモコンのキーボード11を通じて、1時間毎の希望温度を設定する。主チップ12は設定された温度を記憶チップ13に記憶する。引き続きユーザは次の1時間の希望温度を設定する。ユーザはこれを繰り返すことにより、睡眠時の希望温度を全て設定する。これにより参考図2に示すユーザ定義睡眠曲線が完成する。

 

 設定した各時間帯の温度は空調機メインユニット2へ出力される。空調機メインユニット2は設定された各時間帯の設定温度に従い空調制御を行う。

 

(2)訴訟の経緯

 広東美的制冷設備有限公司(被告)は2008年4月頃から263特許と同様の機能「快眠モード3」を有する4つのタイプの空調機(KFR-23GW/DY-V2(E2)、KFR-26GW/DY-V2(E2)、KFR-32GW/DY-V2(E2)、KFR-35GW/DY-V2(E2))の製造販売を開始した。

 

 2008年12月1日原告は被告の販売する4つのタイプの空調機が263特許を侵害するとして広東省珠海市中級人民法院(以下、中級人民法院という)へ提訴した。

 

 中級人民法院は司法鑑定結果[3]に基づき均等論上の技術的範囲に属し、被告は原告の特許を侵害するとの判決をなした。また、中級人民法院は、被告が提出した一部の販売データに基づき200万元の損害賠償を支払うよう被告に命じる判決をなした。被告はこれを不服として広東州高級人民法院(以下、高級人民法院という)へ上訴した。

 

3.高級人民法院での争点

争点1:被告は方法特許の使用者といえるか否か

 263特許は「ユーザ定義曲線に基づく空調器実行制御方法」であるところ、空調機及びリモコンを販売するにすぎない被告が、当該方法の使用者であるといえるか否かが問題となった。

 

争点2:被疑侵害品は本件特許請求項2の全ての技術特徴と同一または均等の技術特徴を含むか否か 

 請求項2の構成要件は「設定完了後,前記リモコンは既に設定したユーザ定義曲線データを、前記リモコン内の記憶チップ中に記憶」であり、記憶チップにデータを記憶する。これに対し、被疑侵害品はプロセッサ内の揮発性メモリにデータを記憶する。この場合に、被疑侵害製品は請求項2と同一または均等の技術特徴を有するか否かが問題となった。

 

争点3:損害賠償額の算定が妥当か否か

 被疑侵害品の一部の利潤データしか存在しない状況で、どのように法定賠償額を決定するか否かが問題となった。

 

 


[1]広東省珠海市中級人民法院2009年判決 (2009)珠中法民三初字第5号民事判決

[2]広東省高級人民法院2011年10月27日判決(2011)粤高法民三終字第326号

[3] 工業及び情報化部ソフトウェア及び集積回路促進センター知識産権司法鑑定所2010年11月29日 [2010]知鑑字第005号《司法鑑定意見書》

(第2回へ続く)

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