早わかり中国特許: 第12回 (2) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許: 第12回 (2)

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

第12回は重複特許の禁止、発明特許と実用新型特許の重複出願、単一性及び公序良俗違反について説明する。(第2回)

河野特許事務所 2012年7月11日 執筆者:弁理士 河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2012年4月号掲載)

 

4.発明の単一性(外観設計特許)

(1)一外観設計一出願の原則

 中国においては、日本の一意匠一出願(日本国意匠法第7条)と同様に、一外観設計一出願の原則が採用されている(専利法第31条第1項)。

 

(2)類似外観設計出願と組物の出願

 ただし、同一製品に係る二つ以上の類似外観設計意匠、または、同一類別に該当しかつセットで販売または使用される製品に用いられる二以上の外観設計は、一件の出願として出願することができる(専利法第31条第2項)。

 

(3)類似外観設計出願

 中国における類似外観設計出願制度は、日本の関連意匠制度(日本国意匠法第10条)に類似する規定であるが、同日に類似するデザインを一出願内に含めて出願しなければならない点で相違する。類似外観設計出願制度は、バリエーションデザインを適切に保護すべく第3次法改正時に新設されたものである。具体的な要件は以下のとおりである。

 

(i)バリエーション数の制限

 1件の特許出願に含めることができる類似外観設計は10を越えてはならない(実施細則第35条)。

 

(ii)同一製品であること

 1件の出願における各外観設計は同一製品におけるデザインでなければならない。例えば、全部が食器皿のデザインである。各外観設計が、食器皿、取り皿、コップ、茶碗のデザインである場合、国際意匠分類における同一大分類に該当するものの、同一製品ではないため類似外観設計出願をすることができない。

 

(iii)本外観設計の特定

 外観設計の簡単な説明には本外観設計を特定しなければならない(実施細則第28条)。また、同一製品における他の外観設計は、当該本外観設計と類似しなければならない。すなわち、本外観設計を中心とした類似範囲について出願が認められ、本外観設計とは非類似の範囲についてまで出願することはできない。類似か否かを判断する際には、他の外観設計と本外観設計とを単独に比較する。

 方式審査においては、類似外観設計出願について、専利法第31条2項の規定事項に明らかに適合しないものか否かが審査される。一般的に、全体観察を経て、他の外観設計と基本外観設計とが、同一または類似した設計特徴を備えており、かつ両者間の相違が局部における細かな変化、当該種別の製品の常用設計、設計ユニットの並びの繰り返し又は単なる色彩要素の変化などにある場合、通常両者が類似する外観設計であると判断される。

 

(4)セット製品の出願

 専利法第31条第2項は、「同一類別に該当しかつセットで販売または使用される製品に用いられる二以上の外観設計は、一件の出願として出願することができる」と規定している。日本の組物の意匠制度に類似するものである(日本国意匠法第8条)。

 

(i)セット製品

 セット製品とは、国際意匠分類において同一大分類に属する各自で独立している2以上の製品によって構成され、各製品の設計発想が同一であり、うち一製品に独立した使用価値を備えており、各製品を組合せた場合に、組合せ後の使用価値が現れる製品をいう。例えば、コーヒーカップ、コーヒーポット、ミルクポットとシュガーポットによって構成されるコーヒー器具等が該当する。

 

(ii) セットで販売または使用

 セットで販売または使用とは、習慣上同時に販売または同時に使用され、かつ、組み合わせ後に使用価値を持つことをいう。

(a)同時販売

 同時販売とは、外観設計に係る製品が習慣上同時に販売されるものをいう。例えば、ベッドカバー、シーツ、枕カバー等により構成されるベッド用品である。販促のために適宜セットで売り出される製品、例えば、ランドセルとペンケース等、ランドセルを購入した際にペンケースが景品になるとしても、習慣上での同時販売と見なされず、セット製品として出願することはできない。

 

(b)同時使用

 同時使用とは、製品が習慣上同時に使用されることをいう。つまり、一の製品を使用している場合、使用上連想を起こし、別の一つ或いは複数の製品の存在に思いつくことであって、これらの製品を同時に使用するということではない。例えば、コーヒー器具のうち、コーヒーカップ、コーヒーポット、シュガーポット、ミルクポット等が該当する。

 

(iii) 各製品の設計思想の同一

  設計思想の同一とは、各製品の設計スタイルが統一されていることをいる。つまり、各製品の形状、図案又はその組合せ、並びに色彩及び形状、図案の組合せについて作成された設計が統一されていることをいう。

 形状の統一とは、個々の対象構成製品のいずれも同一の特定の造形を特徴とする、若しくは個々の対象構成製品が特定の造形によって組合せの関係を成す場合、形状統一の要件に合致すると判断される。

 図案の統一とは、各製品上の図案設計のモチーフ、構図、表現方式などにおいて統一されていることを言う。その一つでも違っている場合、図案の不統一と判断される。例えば、コーヒーポットの設計は、蘭の花の図案をモチーフとしていながら、コーヒーカップの設計の図案はパンダになっている場合、図案として選ばれたモチーフが違うことから、図案の不統一となり、統一・調和の原則に合致しないと判断されるため、セット製品として出願することができない。

 色彩の統一については個別に考慮されず、各製品の形状や図案と共に統合的に考慮される。各製品における色彩の変化が大きく、全体の調和性を損ねている場合は、セット製品として出願することはできない。

 

(iv) セット製品に含めることができない類似外観設計

 セット製品の外観設計出願は類似外観設計出願の対象とすることができない。例えば、食事用のコップと取り皿とを含めたセット製品の外観設計出願には、当該コップと取り皿についての二つ以上の類似外観設計を含めることができない。

 

(v) セット製品の各構成要素が特許要件を具備すること

 セット製品全体として上述の要件及び特許要件を満たすことが必要であるほか、セット製品を構成する各製品それぞれも、特許要件を満たすことが必要とされる。

 

5.公序良俗違反

 中国では専利法第5条に公序良俗に反するとして登録を認めない発明を規定している。

 

第5条

 法律、社会道徳に違反し、又は公共の利益を害する発明創造に対しては、特許権を付与しない。

 法律、行政法規の規定に違反して遺伝資源を入手又は取得した場合には、当該遺伝資源により完成された発明創造に対しては、特許権を付与しない。

 

(1)専利法第5条第1項に該当する発明創造

(i)法律に違反する発明創造

 法律とは、全国人民代表大会または全国人民代表大会常務委員会が立法プロセスに基づいて制定・公布する法律をいい、行政法規または規則を含まない。発明創造が法律に違反している場合、特許が付与されない。例えば、賭博用装置、機械または道具、麻薬吸飲用器具、国家貨幣、手形、公式文書、証明書、印鑑、文化財等を偽造する装置は全て法律に違反する発明創造に該当する。ただし発明創造が法律に違背せず、単に濫用されたことを理由に違法となる発明創造は、法律に違反する発明創造に該当しない。例えば、医療用の各種毒薬や麻酔薬、鎮静剤、覚醒剤および娯楽用の駒、カード等である。

 

(ii)社会道徳に反する発明創造

 社会道徳とは、公衆が普遍的に正当なものと認め、そして受け入れられるような倫理・道徳観および行動基準をいう。社会道徳に反する発明創造、例えば、暴力・虐殺又は淫猥な図又は写真を伴う意匠、医療目的外の人工器官又はその代用品、人間と動物の交配方法、人間の生殖系遺伝子の同一性を改変する方法又は生殖系遺伝子の同一性が改変された人間、クローン人間或いは人間のクローン方法等は保護を受けることができない。

 

(iii)公共の利益を害する発明創造

 公共利益の利益を害するとは、発明創造の実施または使用により公衆或いは社会に危害をもたらすか、若しくは国と社会の正常な秩序に影響を与えることをいう。例えば、窃盗者の両眼を失明させる窃盗防止装置及びその方法など、他人の身体に障害を起こすまたは財産の損害を手段とする発明創造に対しては特許が付与されない。

 

(2)専利法第5条第2項に該当する発明創造

 法律または行政法規に違反して遺伝資源を獲得または利用し、かつ当該遺伝資源に依存して完成した発明創造も特許を受けることができない(専利法第5条第2項)。

(i)法律または行政法規に違反

 法律または行政法規の規定に違反して遺伝資源を獲得しまたは利用するとは、遺伝資源の獲得或いは利用に際し、中国の関連法律または行政法規の規定に基づき、事前に関連の行政管轄部門による承認若しくは関連権利者による承諾を取得していないことをいう。例えば、『中華人民共和国牧畜法』および『中華人民共和国禽畜遺伝資源入出国と対外的合作・研究利用の審査・承認弁法』の規定事項によれば、中国禽畜遺伝資源保護名鑑に掲載された禽畜遺伝資源を外国に輸出する場合、関連する審査承認手続きを行う必要がある。中国国外へ輸出された中国禽畜遺伝資源保護名鑑にある禽畜遺伝資源について、審査承認手続きを行っていない場合、これに依存して完成された発明創造に対しては特許を受けることができない。

 

(ii)遺伝資源及び遺伝資源への依存

 遺伝資源とは、人間、動物、植物または微生物に由来し、遺伝機能単位を含有し、かつ実際的なまたは潜在的な価値を有する材料をいう。また発明創造が遺伝資源に依存して完成したとは、発明創造が遺伝資源の遺伝機能を利用して完成したことをいう(実施細則第26条)。

 

(iii) 願書への記載

 発明創造が遺伝資源の遺伝機能を利用して完成したものである場合、出願人は願書に説明し、かつ国務院特許行政部門の指定用紙に記入しなければならない。

 

(第3回へ続く)

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