早わかり中国特許: 第11回 (3) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許: 第11回 (3)

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

第11回は外観設計特許の類否判断事例を紹介するほか、特許要件として規定されている実用性について説明する。 (第3回)

河野特許事務所 2012年6月25日 執筆者:弁理士 河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2012年3月号掲載)

 

4.北京市高級人民法院の判断

類否は、SUVの一般消者に対する視覚效果への影響を考慮すべきである

 外観設計が専利法第23条の規定に合致するか否かについて判断する場合、係争外観設計に係る物品の一般消費者の知識レベル及び認知力を基に評価される。これは異なる種別の物品は、異なった消費者群を持つからである。最高人民法院は、特定タイプの外観設計に係る物品の一般消費者は、次に掲げる特徴を備えなければならないと判示した。

 

(1)係争外観設計の出願日以前の同種または類似物品の外観設計またはその常用設計手法について、常識程度の認識を持っている。

 例えば自動車の場合、一般消費者は市販されている自動車、及び、メディア上で頻繁に見られる自動車広告上の情報等について、ある程度の認識を持っているものでなければならない。なお、常用設計手法とは、設計の転用、つなぎ合わせ、置換え等である。

 

(2)外観設計に係る物品同士の形状、図案及び色彩の相違点について、ある程度の識別力を備えているが、物品の形状、図案及び色彩の軽微な変化まで注意が行き届かない。

 

 審查指南[1]によれば,一般消費者の特徴は,同種または類似物品の外観設計または常用設計手法について、常識程度の認識を持っており,外観設計に係る物品同士の形状、図案及び色彩の相違点について、ある程度の識別力を備えているが、物品の形状、図案及び色彩の軽微な変化まで注意が行き届かないことと規定している。

 ここで所謂“常識程度の認識”とは,関連製品のデザイン状况に精通している一方で、デザインする能力を有さないが、基礎的、簡単な認識には限定されないことをいう。

 所謂“全体”とは,製品の可視部分の全部のデザイン特徴を含み,その中の特定部分をいうものではない。

 所謂“総合”とは,製品デザインの全体的視覚効果に対し影響を与える全ての要素の総合をいう。

 

 本案において,係争対象の自動車の外観設計の“全体”は,自動車の基本的な外形輪郭及び各部分の相互比例関係を含み,さらに自動車の前面、側面、後面等をも含み,全体的観察を行わなければならない。その上で最高人民法院は、総合判断を行う場合,係争タイプ(SUV)の特徴に基づき,諸々の部分を、自動車デザイン全体の視覚效果への影響に対して、比較判断しなければならないと判示した。

 

 最高人民法院は、本案係争対象となっているSUVに関していえば,SUVの外形輪郭は全て比較的似ており、一般消費者に対する視覚效果への影響は比較的限られていると判断した。反対に、自動車の前面、側面、後面等の部位のデザイン特徴の変化は,SUVタイプの一般消者の注意をより多く引き起こす可能性があると述べた。

 

 そして、最高人民法院は特定タイプの自動車(SUV)の一般消費者がより注意を引く部分について以下のとおり相違点を分析した。

 

 523特許が示す外観設計は、引例が示す外観設計と比較すれば,ヘッドライト、フォグランプ、フロントバンパー、グリル、サイドウィンドー、バックライト、テールバンパー、ルーフ輪郭等、装飾性に関し比較的強い相違点が存在する。

 

 特に,523特許の自動車ヘッドライトは近似三角形の不規則四辺形デザインを採用しており,歯保護用逆U字形のフロントバンパーと中間横向きの細長グリルとを組み合わせており;

自動車の側面側後部ウインドウは不規則の四辺形デザインを採用し,かつ後部ウィンドウガラスとバックライトとの間は窓枠により分離されており,ボディ上部と下部との組み合わせは非常に平滑であり;

自動車後面はバックライトを、ルーフ附近から始まり一直線にテールバンパーまで延びて反り返る“上が狭く下が広い”の柱形ライトデザインを採用して、歯保護用U形テールバンパーを組み合わせており,共に比較的突出しており、人目を引き,比較的強い視覚衝撃力を有する。

 

 明らかに,これらの相違点は本案訴訟の対象となっているタイプ(SUV)の自動車の一般消費者からすれば一目で分かるものであり,523特許に示す自動車デザインと引例に示す自動車デザインの全体的視覚效果と区別するのに十分であるといえる。以上の理由により最高人民法院は、523特許と引例との上述した相違点は全体視覚效果に対し顕著な影響を有することから、両者は類似しないと結論づけた。

 

 また、復審委員会、北京市第一中級人民法院及び北京市高級人民法院の判断について、最高人民法院は以下のとおり誤りを指摘した。特許復審委員会の決定及び原一、二審判決はともに、2つの外観設計間の差異を認定したが、当該差異は“極めて細かい差異”にすぎないという理由をもって,当該差異部分のデザイン特徴を自動車デザインの“全体”から排除しており,実質上2つの外観設計の全体外形輪郭に対してのみ重点を置いて比較を行った。その上、自動車の全体外形輪郭を本訴訟のタイプの自動車ではない一般消の視覚に対し、受ける影響を最も顕著なものと認定したと、最高人民法院は誤りがあることを指摘した。

 

5.結論

 最高人民法院は、復審委員会の決定、北京市第一中級人民法院及び北京市高級人民法院の判決を取り消す判決[2]をなした。

 

6.コメント

 外観設計の類否について最高人民法院が示した重要な判決である。実務上自社が過去に出願した意匠登録出願が引例とされ、類似するから無効と主張される場合が多い。消費者にとって評価の高い商品であればあるほど、マイナーチェンジを繰り返し、デザインをより洗練されたものに進化させていくであろう。

 

 本事件はこのようなデザインの進化を適切に保護すべく、一般消費者の範囲を特定の分野に限定し、限定された一般消費者の視覚に与える影響に基づき類否を判断している。中国では外観設計特許は、先行外観設計との類否を判断することなく無審査で登録[3]されるため、類否に関する議論が十分に行われていない。本最高人民法院の判決は、今後の外観設計の類否判断に極めて大きな影響を与えることになるであろう。

 

II.実用性

 専利法第22条第1項は「特許権を付与する発明及び実用新型は、新規性、創造性及び実用性を有しなければならない。」と規定している。ここで、

「実用性とは、その発明または実用新型が、製造または使用が可能であり、かつ積極的な効果を生じ得ることをいう」(専利法第22条第4項)。

 

1.製造または使用が可能

 実用性の要件を具備するためには、発明が、産業上製造または使用が可能な技術方案であることが必要とされる。産業とは、工業、農業、林業、水産業、牧畜業、交通運送業及び文化スポーツ、生活用品、医療器械等の業界を含み、産業上で製造または使用が可能な技術方案とは、自然法則に合致し、技術的特徴を有し、再現性をもって実施できるあらゆる技術方案をいう。

 

2.積極的な効果

 積極的な効果を生じ得るとは、発明特許または実用新型特許出願の出願日において、その経済的効果、技術的効果及び社会的効果が当業者にとって予期可能であることをいう。これらの効果は積極的、有益なものでなければならない。

 

3.実用性を具備しない形態[4]

(1)再現性のないもの

 再現性とは、当業者が、開示された技術内容に基づき、出願において技術的課題の解決に採用された技術方案を繰り返し実施することができることをいう。

 

(2)自然法則に反するもの

 自然法則に反する発明または実用新型出願は実施することができないため、実用性を具備しない。例えば、永久運動機械等、エネルギー保存の法則に反する発明または実用新型出願の主題は必然的に実用性を具備しないと判断される。

 

(3)唯一無二の自然条件を利用する製品

  特定の自然条件を利用して建造され、常に移動できない唯一の製品は実用性を具備しない。

 

(4)人体または動物体に対する非治療目的の外科手術方法

 非治療目的の手術方法は生きている人または動物を実施対象とし、産業上使用することができないため、実用性を具備しない。例えば、美容のために施される外科手術方法、または外科手術により生きている牛から牛黄を取る方法、及び冠動脈撮影をする前に採用する外科手術方法等である。なお、治療を目的とする外科手術方法は第4回で説明したとおり、特許を受けることができない発明であるとして拒絶される(専利法第25条第1項(3)、審査指南第2部分第一章第4.3節)。

 

(5)極限状態における人体または動物体の生理パラメータの測量方法

 極限状態における人体または動物体の生理パラメータを測量する場合、測量対象を極限環境に置かなければならないため、人または動物の生命を脅すこととなる。人または動物の個体によって耐えることのできる極限条件が違い、経験者である測量者が測量対象の状態により耐えることのできる極限条件を確定する必要がある。従って、このような方法は産業上使用できず、実用性を具備しないこととなる。

 

(6)積極的な効果がないもの

  明らかに無益で、社会的な需要から逸脱した技術方案には実用性を具備しない。

 

                                                                            以上



[1] 審査指南第4部分第5章4.

[2] 最高人民法院2010年判決 (2010)行提字第3号

[3] 専利法第40条

 実用新型及び外観設計の特許出願が初歩的審査を経て拒絶理由を発見しなかった場合は、国務院特許行政部門は実用新型特許権又は外観設計特許権を付与する決定をし、特許証書を発行し、同時に登録と公告を行う。実用新型特許権及び外観設計特許権は公告の日より効力を生じる。

[4] 審査指南第2部分第5章3.2

 

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