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早わかり中国特許
~中国特許の基礎と中国特許最新情報~
第9回 特許要件 創造性(2) (第4回)
河野特許事務所 2012年5月11日 執筆者:弁理士 河野 英仁
(月刊ザ・ローヤーズ 2012年1月号掲載)
これに対し、引用文献2は自動車の縦置板スプリング式非独立サスペンションを開示している。参考図5は非独立サスペンションの構造を示す斜視図である[1]。
参考図5 非独立サスペンションの構造を示す斜視図
引用文献2も、請求項1に係る発明と同様に前端のロール状取手は板バネスプリングピンを用いて前ホルダに相連なり,固定されたヒンジ支点を形成し,一方、後端のロール状取手は板バネスプリングラグピンを通じて、ヒンジを用いてホルダ上に引っかけられ自由に揺動することができるラグに相連なっている。
従ってバネスプリングが変形する際に2つのロール状取手の中心線間の距離が変更される。そして、加速振動の減衰により,運転者の乗車快適性を改善できる。また,トラックの前サスペンションは減震器を備える。つまり、自動車のシャーシ分野には、引用文献1に開示のない請求項1の技術特徴が開示されていた。
他の技術分野との組み合わせに関し、審査指南[2]は以下のとおり規定している。
「実用新型特許については一般的に、当該実用新型特許の属する技術分野に着眼して考慮すべきである。ただし、現有技術で明らかな啓示が与えられている場合、例えば、現有技術に明確に記載されており、その分野の技術者が隣接或いは関連する技術分野から関連の技術的手段を探り出すこととなる場合には、その隣接或いは関連する技術分野を考慮してもよい。」
高級人民法院は、三輪オートバイ及び自動車は共に機動車(エンジンを持つ車の総称)の範疇に属すると認めたものの、機動車の技術分類として創造性を判断するにはその範囲が広すぎると認定した。なぜならば、両者の全体的な車両構造、動力構造等は明らかに相違しており,これら相違から車体フレームは直接に上記構造の影響を受ける。従って、引用文献2と本特許の技術分野は同一分野ではなく、隣接する技術分野といえる。
本特許が保護を求めているものは、車体フレームの全体的な構造であるところ、引用文献1は単に後サスペンション構造を開示しているにすぎず,引用文献1の車体フレーム全体構造中において直接に引用文献2の後サスペンション構造を採用することができるか否かについて,必ずしも明確な技術啓示が与えられていない。
また類似の後サスペンション構造を採用して三輪オートバイ車体フレーム構造中に応用し、車両シャーシを低くすることができ,走行安定性を増大することができ,転倒作用発生を避けることができるとの教示も、引用文献1中には存在しない。
以上のとおり引用文献1に啓示がないことから、高級人民法院は、同一技術分野ではない隣接技術領域に係る引用文献2は、公知常識として実用新型の創造性を評価するのに用いることができないと判示した。
以上のことから、高級人民法院は、審判請求人が提出した引用文献に対し、創造性を有すると判断した復審委員会及び北京市第一中級人民法院の判決を支持する判決をなした。
(5)結論
北京市高級人民法院は請求項1について専利法第22条第3項に適合、即ち創造性を有するとして復審委員会の審決および北京市第一中級人民法院の判決を支持する判決をなした。
以上
[1]清華大学ソフトウェアデータデース「自動車シャーシ構造」HPより(2011年8月15日)
http://jigou.xauat.edu.cn/ex/tsinghua/software/08/02/002/01/00001/tujie/chapter2/html/tj1-05.htm
引用文献2の図面が判決文に存在しなかったため、同様のサスペンション構造を示した。
[2] 審査指南第4部分第6章4.
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