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中国特許判例紹介:パラメータ特許のサポート要件 (第1回)
~ローディア事件と富士化水事件にみる中国のサポート要件~
河野特許事務所 2012年4月11日 執筆者:弁理士 河野 英仁
ローディア化学公司
特許権者、一審原告、二審上訴人
v.
知識産権局専利復審委員会
一審被告、二審被上訴人
1.概要
数値範囲をもって権利範囲を確定する所謂パラメータ特許は、中国においてもその記載が認められている[1]。
請求項に記載した数値範囲に対応させて、実施例にはできるだけ多くの例を開示しておくことが好ましい。しかしながら出願を急ぐ関係上完璧な実験データを記載することは困難であり、また詳細な数値条件についてはノウハウとして公開を希望しない場合もある。
本事件ではパラメータ特許に対し無効宣告が請求され、請求項の「少なくとも0.6cm3/g」の記載が明細書によりサポートされているか否かが争点となった。復審委員会[2]及び人民法院[3]は、当業者が合理的な最大値を予期できないとして、共にサポート要件を具備しないと判断した。
2.背景
(1)発明特許の内容
ローディア化学公司(原告)はセリウム及びジルコニウムの混合酸化物の組成物及びその前駆対、製法及び応用と称する特許(ZL94194552.9号、以下、552特許という)を所有している。原告は1994年12月20日に中国知識産権局に発明特許出願を行い、1998年9月16日に登録を受けた。
争点となった請求項の記載は以下のとおりである。
9.セリウム及びジルコニウムの混合酸化物を主要成分とする組成物において、
全気孔容量(原文:総孔体積)は少なくとも0.6cm3/gであることを特徴とする組成物。
10.少なくとも、40%の全気孔容量は直径がせいぜい1μmの孔である
ことを特徴とする請求項9に記載の組成物。
11.少なくとも、50%の全気孔容量は直径がせいぜい1μmの孔である
ことを特徴とする請求項9に記載の組成物。
12.少なくとも、40%の全気孔容量は直径が10~100μmの孔である
ことを特徴とする請求項10に記載の組成物。
13. 少なくとも、50%の全気孔容量は直径が10~100μmの孔である
ことを特徴とする請求項10に記載の組成物。
14. セリウム及びジルコニウムの混合酸化物を主要成分とする組成物において、
全気孔容量は少なくとも0.3cm3/gであり、その体積は直径がせいぜい0.5μmの孔により提供されることを特徴とする組成物。
15.800℃で6時間焼成した後、その比表面積が少なくとも20m2/gである
ことを特徴とする請求項9に記載の組成物。
(2)無効宣告の請求
海賽(天津)特種材料有限公司(以下、請求人)は552特許の請求項9~15が明細書のサポートを得ていないとして無効宣告請求を復審委員会に提出した。
(3)明細書の記載
請求項9は「全気孔容量は少なくとも0.6cm3/gである」ところ、実施例には以下の記載がなされていた。
「第1実施方式の組成物の全気孔容量は少なくとも0.6cm3/g、より具体的には、少なくとも0.7cm3/gであれば良く、一般的には0.6~1.5cm3/g。」
「第2実施方式中の組成物の全気孔容量は少なくとも0.3cm3/g。」
また実施例9及び10には全気孔容量に関し、
実施例9「得られる製品が全気孔容量を0.73cm3/gを有する」、
実施例10「得られる製品が全気孔容量を0.35cm3/gを有すると記載している。」
復審委員会は明細書には、「一般的には0.6~1.5cm3/g」としか記載されていないことから、本特許請求項9-15中の全気孔容量が1.5cm3/gを超える組成物が全て明細書のサポートを得ているかを予期することは困難であり、専利法第26条第4項に規定適合せず、無効との審決を下した。
原告はこれを不服として北京市第一中級人民法院に上訴したが、同法院はこれを維持する判決をなした。原告は判決を不服として北京市高級人民法院に上訴した。
3.高級人民法院での争点
争点:どの程度まで記載すればサポート要件を具備するか?
552特許は数値範囲として「少なくとも0.6cm3/g以上」と上限がない請求項を作成している。そして、実施例には上限についての明確な記載はないが、「一般的には0.6~1.5cm3/g」とは記載されている。
このような場合に、専利法第26条第4項に規定するサポート要件を具備するか否かが争点となった。
[1] 審査指南第2部分第2章3.2.2
[2]無効宣告審査決定番号第12760号
[3]北京市第一中級人民法院2009年判決:[2009]一中行初字第1121号、北京市高級人民法院2010年判決:[2010]高行終字第112号
(第2回へ続く)
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