- 松山 淳
- アースシップ・コンサルティング コンサルタント/エグゼクティブ・カウンセラー
- 東京都
- 経営コンサルタント
対象:キャリアプラン
- 宇江野 加子
- (キャリアカウンセラー)
- 冨永 のむ子
- (パーソナルコーチ)
人は弱いからちゃんとした人になれる【第2章-2】
美大の空間デザイン科を卒業し、希望通りの会社に就職した。
大型複合施設の空間設計を手掛ける最大手である。
母は仕事の内容をよく理解しなかったが、
電話口から聞こえる美咲の明るい声に
「そう、そうなの、それはよかったね」
と、同じセリフを何度も繰り返した。
入社後、花形の「流通一部」に配属された。
先輩の教えを受けながら、アパレル系のブランドショップを手掛けた。
ところが三年目の春、
スーパーなど、チェンー展開している店舗を主に担当する
「流通三部」へ異動になった。
空間デザインの仕事に違いはないが、内容は大きく変わり、
正月、豆まき、お中元、お歳暮など季節ごとの催事に合わせて、
店内を装飾する仕事であった。
上司は「一年で戻すから」と、お別れ会の席で熱く語ってくれたが、
所詮は酒の席での話だった。
それから、3年の歳月が流れている。
* * *
電車は、会社のある最寄り駅へと向かっている。
横に立っている中村さんは、何も言わない。
来年の春で定年だと記憶している。
嫌いではないが、尊敬はしていない。
同じ部に所属しながら、日々現場を飛び回る美咲とは縁が薄く、
かつては、賞をいくつもとったデザイナーだったと聞いているが、
本当なのだろうかと、疑っている。
新年会、忘年会、送別会など、年に数度開かれる飲み会の席で
社交辞令に近い会話をしただけだ。
何を話したのか覚えていない。
部長代理という微妙な役職で、部の事務的な仕事をしている。
美咲より背が低く、春も夏も秋も冬も、
いつも同じダークブラウンのジャケットを着ていた。
*1
*1この物語はフィクションです。 登場する人物名・団体名等は実在のものと一切関係ありません。