- 村田 英幸
- 村田法律事務所 弁護士
- 東京都
- 弁護士
対象:企業法務
- 尾上 雅典
- (行政書士)
- 河野 英仁
- (弁理士)
○ 連鎖倒産を避けろ!―動産売買の先取特権
長井商事が手形不渡りを出したことを知った水野製作所の水野社長は、慌てて黒田弁護士のもとを相談に訪れた。
水野製作所は精密機器を製造し、長井所商事が南関東の販売代理店として、水野製作所の商品を売っていた。長井商事は、いったん水野製作所から商品を購入する形式であった。しかし、実際は、商品は長井商事の顧客のもとへ直接納品され、伝票も直送形式を取っていた。
「水野製作所は、長井商事に対して、1億円の売掛金債権があります。それを何とか回収する方法はないでしょうか。」と水野社長は聞く。
黒田弁護士は長井商事の資産関係を調べてみたが、不動産には多額の抵当権がついており、オーバーローンの状態であった。
「長井商事の商品の転売先の状況はどうですか。」と黒田弁護士が聞くと、水野社長と一緒に来た担当者は詳しい状況を説明してくれた。
そこで、黒田弁護士は「では、動産売買の先取特権という方法を使いましょう。長井商事が転売した転売先に対して、売掛金債権を差押えすることができます。」と提案した。
水野社長は「そういう、うまい方法があるならば。」ということで賛成してくれた。
動産売買の先取特権は、「先取特権」という名前が示すとおり、優先的な権利であり、法律で認められた担保権である。
そのため、動産売買の先取特権があることを裁判所に対して証明するためには、売買基本取引約定書、注文書、注文請書、荷送り状、納品書などをそろえなければならない。商品の数が多いために、1個1個について、長井商事に売却し、それが他の転売先に納品されたことを証明するためには、多数の証拠書類をそろえなければならなかった。
転売代金の差押は、債権差押命令の申立てをすることとなるが、その証拠資料は、なにしろおびただしい数であった。
こうして準備が進み、債権差押命令を申し立てた。裁判所が申立てを審査して、債権差押命令が発せられ、転売代金債権を差押えることができた。
そこで、長井商事の売掛先に対して、水野製作所へ支払ってくれるように督促した。転売先は、裁判所の命令ということで、不承不承支払ってきた。
そうしたところ、長井商事が自己破産の申立てをなし、破産管財人が選任されて、破産手続が開始された。
動産売買の先取特権が成立する場合であっても、破産管財人は転売代金債権を取り立てることができるし、商品を他へ売却することもできる。動産売買の先取特権に基づく債権差押命令と破産管財人からの請求が競合した場合には、法律的には、動産売買の先取特権が優先するというのが判例だが、破産管財人が転売先から代金の弁済を受けた場合には、もはや代金返還を破産管財人に求めることができないとされている。
したがって、破産管財人に法律上は勝てるとはいっても、結局は早い者勝ちのようなところがある。
そのため、黒田弁護士としては、動産売買の先取特権をいかに早く行使するかがポイントだったが、幸い、時間との競争に勝ったのだった。
転売代金債権からは、ほぼ7~8割の回収をすることができた。倒産時における債権回収としては、上出来といえよう。水野社長も満足してくれた。
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