米国特許判例紹介: 文言解釈と均等論による解釈 (第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例紹介: 文言解釈と均等論による解釈 (第2回)

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米国特許判例紹介: 文言解釈と均等論による解釈 (第2回) 

~セミランダムレートの解釈~                

                      Absolute Software, Inc. et al.,

                                      Plaintiffs-Appellants,

                              v.

                        Stealth Signal, Inc. et al.,

                                   Defendants-Cross Appellants.

河野特許事務所 2012年4月4日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

3.CAFCでの争点

争点1:前回の発信から24.5時間後の発信がセミランダムレートといえるか否か?

 イ号製品は、監視センターに対し、前回発信してから24.5時間後に発信を開始するよう設計されているが、この点については争いがない。クレームには「セミランダムレート」でメッセージパケットを送信する点が記載されており、イ号製品が当該構成要件を文言上具備するか否かが問題となった。

 

争点2:前回の発信から24.5時間後の発信がセミランダムレートといえるか否か?

 また文言上の侵害に該当しないとすれば、均等論上の侵害が成立するか否かが問題となった。

 

 

4.CAFCの判断

争点1の結論:明細書の記載から文言侵害には該当しない

 原告は、被告イ号製品が監視センターに前回の発信完了から24.5時間毎に発信を開始する点を認めたものの、特許権侵害が成立すると主張した。イ号製品は一定時間毎の発信であるが、インターネットにアクセスが集中している場合、または、監視センターにトラフィックが集中し負担増となっている場合などでは、必ずしも一定時間毎に発信が行われない事を根拠とした。すなわち、イ号製品はシステムへのアクセスが集中している場合、発信が遅れることから、発信間隔が変動し、「セミランダムレート」の構成要件を具備するというものである。

 

 CAFCは「セミランダムレート」の解釈に当たり、269特許の明細書の記載を参酌した。269特許のサマリーには、発信は好ましくは、注意深く制御されたセミランダムレートで、おそらく1週間に一回トリガーされると述べられていた。

 

 また269特許の実施例には、乱数発生器10が以下のとおり2つの機能を果たすと記載されている。

(i)例えば、一日、1週間、1ヶ月等、一定時間毎に1回発信する。

(ii)当該発信は前記一定時間の間に一回だけランダムになされる。

 

 CAFCは、原告が主張した要因により、イ号製品によりなされる将来の発信の正確なタイミングは、確実に予期することができないものの、発信終了時点において次の発信は正確に24.5時間後に開始される事実があると述べた。

 

 このように、イ号製品においては、次回発信時間は、いつも正確に前回の発信から24.5時間後に起こることが決定されている。また明細書の記載に鑑みれば269特許は発信間隔を、乱数発生器を用いてランダムで変動させることを特徴とするところ、アクセス集中等に起因する発信間隔の変動までをも、クレームの「セミランダムレート」と意味することはできないと結論づけた。

 

 以上のとおり、CAFCは文言上イ号製品に対して特許権侵害が成立しないと判断した。

 

争点2の結論:機能が相違することから均等侵害は成立しない

 CAFCは、イ号製品は269特許と機能が相違することから均等論上の侵害が成立しないと判断した。

 

 上述したとおり、均等論上の侵害が成立するか否かは、FWRテストにより判断される。すなわち、イ号製品が、クレームされた発明に対し、実質的に同一の機能(Function)を果たし、同一の方法(Way)で、同一の効果(Result)をもたらす場合に均等と判断される。本事件においては両者の「機能」について分析された。

 

 269特許の「セミランダムレート」とする構成要件は以下の2つの機能を果たす。

第1の機能:ライセンスなく複数の電子装置にインストールする海賊行為を秘密裏に検出すること

第2の機能:監視対象である電子装置内のエージェントが、中央監視装置に次回発信することをユーザに検知されること防止すること

 

 原告は、被告がイ号製品のマーケティング資料において、当該イ号製品の秘密性及び検出困難性をセールスポイントにしており、実質的に同一の機能を果たし、均等論成立要件の一つ「機能」を満たすと主張した。

 

 しかしながら、CAFCは、イ号製品が前回発信終了後24.5時間間隔としているのは、電子装置が全て同時に発信しないようスケジューリングし、サーバの負担を軽減させる機能を果たすものであると認定した。そしてCAFCは、イ号製品は最後の通信から24.5時間後に次回発信が発生することから、イ号製品のユーザは電子装置が次回監視装置にコンタクトする時を正確に把握することができることから、イ号製品は269特許が果たす機能、すなわち発信時期の予測防止機能及び次回発信の阻止機能を果たさないと判示した。

 

 以上のとおり、CAFCは機能が実質的に同一とはいえないことから、均等論上も特許権侵害が成立しないと判断した。

 

 

5.結論

 CAFC大法廷は、文言侵害及び均等論上の侵害も成立しないとした地裁の判断を支持する判決をなした。

 

 

6.コメント

 文言侵害に関しては、明細書でランダムと記載していることから、一定時間経過後に発信を行うイ号製品が文言上侵害に該当しないと比較的容易に判断できる。問題は均等論上の侵害である。米国は、日本の最高裁判所が判示[1]した均等5要件とは全く異なるFWRテストを用いたアプローチを採り、比較的容易に均等論上の侵害が認められるため注意を要する。

 

 本事件では、3要素の内、「機能」面が対比され、均等侵害が成立しないと判断された。他の2要素、方法及び効果については考慮されることなく非侵害と判断された。FWRテストを理解する上で参考となる判例である。

 

判決 2011年10月11日

以上

【関連事項】

判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができる[PDFファイル]。

http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/10-1503.pdf

 


[1]無限摺動用ボールスプライン軸受事件(最判平成10年2月24日 最高裁判所民事判例集52巻1号113頁)

 

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