- 宮本 陽
- And EM アンド・エム 代表
- 兵庫県
- カメラマン
対象:写真・ビデオ
- 宮本 陽
- (カメラマン)
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そうだったの?意外なカメラの知識:スマホのカメラズーム機能はホンモノだろうか?
急激な普及をみせるスマートフォン。その小さな筐体には想像を超える多くの技術が凝縮され高機能を誇ります。ここに搭載されるカメラも、大変高画質のアウトプットを実現するようになってきました。コンパクトデジカメは今後スマホに集約される、とさえ言われるほどの高画質、高機能のカメラではあるものの、唯一、ズーム機能だけはいただけないものと感じています。以下、考察してみます。
【そもそもズーム機能とは何か?】
カメラのレンズには焦点距離というものがあります。これは「画角=写真として写し込む範囲」を決める要素です。ご存じのように、広い範囲を写すには広角側を使い、逆に狭い範囲だけを引き寄せて写すには望遠側を使うという具合です。
これは、レンズの焦点距離を短くしたり長くしたりして、画角を変えることによって実現しています。コンパクトデジカメでも、ズームのレバーやボタン等を操作して「W=Wide(広角側)やT=Tele(望遠側)」に調整することで画角が変わります。一眼レフでも、レンズのリングやレバー等を回す・動かす、といった操作により任意の画角を得ることができます。
【スマホにもズーム機能はありますよね...?】
さて、ではスマートフォンにはズーム機能はないのでしょうか?一部にはズーム機能が無いモデルもあるようですが、iPhoneにしてもAndroidスマートフォンにしても多くのモデルでは、広い範囲にしたり狭い範囲にしたり、といった操作はできると思われます。画面長押しやピンチアウトすることでスライダーが出てきたり、任意のサイドボタンで操作ができる、と思われ、実際に撮影されていることと思います。
しかし、よく見ると、その機能は「上記のようなレンズの焦点距離を変えることによって画角を変えている」のではないものがほとんど。ということに気がつきます。
そんなことはない、私は「広い範囲にしたり、遠くのものを大きく写したりしている!」という声も聞こえてきます。はい、確かに「写る範囲が変わっている」のは確かだと思います。ですが、それは「単一の焦点距離で結像している絵の全体を使うのか、それとも一部分を切り抜いているか。」という「画像(切り抜き:トリミング)処理」によって行っている。のです。
ズーム(と思われる)操作をすると、画角が固定された元の写真を使って、ズーム度合いに応じてどの範囲を切り取るかを変えているだけ、ということなのです。
【本来、レンズ焦点距離によって画角を変えるとモノの形状が変わるのです】
このようして、「みかけ上で切り抜く範囲を変えているだけ」の画像は、PC画面上において画像処理アプリケーションで切り抜きをしているのと同じ作業をスマホ内で行っている状態です。そのため、せっかくズームの操作を行っても「写真を拡大コピーしてハサミで切り抜いたのと同じ」であって、何も変化が起きません。
これは、本来のレンズ焦点距離を変えることによって画角を変えて撮影した写真とはまったく違った絵になっています。この変化は意外と知られていないようで、レンズの焦点距離を変えて画角を変えると、そこに写る被写体の形状や背景との関係が変わってきます。
たとえ、同じ被写体を同じ範囲だけ写るようにしていても、「広角で寄って撮った絵と、望遠で離れて撮った絵」は印象がまったく違います。(サンプル写真:これらの変化についての記述はまた別の機会に。)
【ズーム操作をする理由は、モノの形状や背景との関係に変化をつけるため】
ズーム操作をするのは、レンズの焦点距離によって写る写真の印象を変えるという一つの表現手段として使いたいからなのです。そのために数多くのレンズラインナップが存在します。
ところが、単一画角の写真をトリミングして拡大しているだけ、というのではこうした表現ができないわけです。広い元の一枚を、大きくみえるように切り抜いたり、切り抜かなかったり...、という、表面的な変化だけしか与えられないので、スマホのズーム機能は表現手段としては中途半端な印象が拭えません。過去から慣例的にズームと呼ばれてきた機能とは別物ということになります。
【スマホに"本物"のズームが搭載されるのを期待したい】
なるほど、見かけ上だけ大きさを変えれば、画角を変えてズームしたのと同じように錯覚してしまう...。それをズームと呼んでスマホに搭載する...。
これは今にはじまったことではなく、携帯電話世代にカメラ機能が搭載されたときから行われてきた手法であって、狭小な筐体にカメラを押し込む必要性から生まれた素晴らしいアイデアだと思います。
しかしながら、携帯電話にオマケで付いたカメラ機能とは桁違いの画質を実現し、コンパクトデジカメをも凌ぐレベルになってくると、ズームによる表現手段という部分に及んで化けの皮が剥がれたということなのでしょう。
スマホでこれだけ綺麗な写真が撮れるんだから、もうコンデジは要らないよね!という声をよく聞くようになりました。私自身もそれに近い感覚を持っていますが、「ホンモノのズーム機能」が無い限り手放しでその意見に賛同はできないな、と思っています。
全ての機種を調査したわけではないので断定的なことはいえませんが、POLAROID SC1630 SMART CAMERA以外にも光学ズーム機能を搭載したモデルが出てこないことには、ホンモノのズームによる表現手段は与えられない、という状況が続くことになります。
光学ズームを搭載すれば、レンズの焦点距離を変化させるための機構を持つことになり物理的に大きく重くなりますから、スマホのメリットをスポイルします。この観点からは、「ホンモノのズーム機能=光学ズーム」搭載モデルは普及しないかもしれません。コンデジもまだ活躍の場は残ることになります。
mp3音源のミュージックプレーヤーの普及で、聴く側の耳の感性に変化が起きたように、ホンモノではないズームによるカメラの普及で、画角変化の表現を感じ取れない感性の人間が増えるのだけは避けたいものです。
(イメージ写真)
望遠で離れて撮ったものと、広角で寄って撮ったもの、。レンズの焦点距離を物理的に変える「ホンモノのズーム」を活用すれば、被写体の形状はこれほどまでに大きく変化します。画像処理で一部分を切り抜くだけでは、変化がまったく起きないのです。それは「ホンモノのズーム」とは呼べないのではないでしょうか。
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