【コラム】 株主(会社法131条1項)の推定を覆す事情の有無 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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【コラム】 株主(会社法131条1項)の推定を覆す事情の有無

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【コラム】 会社法131条1項の推定を覆す事情の有無(東京地判平成20・4・14LLI登載)

(ⅰ)事案の概要

 原告は,被告会社の創業者で,元代表取締役であったAの弟であり,Aの事業を手伝っていました。原告は,Aから本件株式を譲り受け,被告会社発行の株券の交付を受け,現在もこれらを所持しています。

被告会社及びAの相続人らは,本件株式は原告からAに売却された旨主張しました。これに対して,原告が,自己が株主であることの確認を求めるとともに配当金の支払いを請求しました。

(ⅱ)判旨

原告の,株主であることの確認請求及び配当金請求がいずれも認められました。

原告の請求が認められたのは,以下の理由によります。

原告は,本件株券を所持しているから,会社法131条1項により,本件株式についての権利を適法に有するものと推定される。

 原告は,もともと被告会社が所有していたパチンコ店を譲り受けて独立して経営することになりましたが,Aと紛争になり,結局原告が事業から手を引き,かつ,原告が家族とともに居住していた板橋区内のA所有の家屋(本件家屋)からも退去し,これと引換えにAは原告に3000万円支払うことで決着が付き,Aから200万円は弁護士費用として控除する旨言われ,2800万円を受け取った。

Aは,原告がAの事業に貢献していることから原告に対して本件株式を譲渡し,本件株券を交付したものと推認され,そうであれば,兄弟関係が悪化し,事業においても私生活においても原告との関係を断つにあたり,本件株式の返還も含めて合意するのが合理的であると解する余地はある。しかし,原告は,Aと袂を分かつに当たって,パチンコ店の経営から手を引き,自らが所有していた世田谷区内のパチンコ店を営んでいた本件土地建物を手放し,家族とともに居住していた本件家屋を退去し,生活基盤を失ったものといえるから,これに対してAから清算金を受領したとしても不自然ではない。また,Aは,本件株式を原告に譲渡するに当たっては本件株券を交付したのであって,本件株式の返還を求めたのであれば本件株券の返還をも求めるのが合理的であるところAが死亡するまでの間,原告に対して本件株券の返還を求めていない。

被告会社は,Aは自らが株式を譲り受けた以上被告会社において誰を株主として扱うべきかは明らかであるから,株券の現実の引渡しがなくても不都合はないと考えて株券の授受を省略した旨主張しているが,これを裏付ける証拠は全くない。加えて,被告会社は,(被告会社の法人税申告書の同族会社の判定にかかる株主欄に原告の名前の記載がないことから)平成15年度以降は原告を株主として扱っていないものと認められるが,原告がAから2800万円を受領した前後において,原告を株主として扱うかどうかについて変更があったと認めるに足りる証拠はない。

 したがって,会社法131条1項の推定を覆すことはできない。

また,被告は,原告が,本件株式の権利関係につき,事情を最もよく知るAの存命中は約28年間も沈黙を守っておきながら,Aが死去するや突如本件株式につき権利を主張してきたこと,原告の主張が認められると,Aが本件株式の株主であるとの前提で運営されてきた株主総会や株主に対する配当がその正当性を失うこととなって法律関係の安定が著しく害されるおそれがあること,原告の本件請求はAの死去という偶然の事情に依拠しているところ,本件請求が認められなくても,原告に不測の損害が生ずるものではないことなどに照らすと,原告の本件各請求は権利の濫用であって認められないと抗弁しましたが,裁判所は権利濫用とは認めませんでした。

(ⅲ)評価

本件で教訓として分かるのは,株式を譲渡(買い戻し)した場合には売買契約書等を作成し,株券の引き渡しを受けておくことです。

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