中小企業での株主代表訴訟の実態 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
弁護士

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対象:事業再生と承継・M&A

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中小企業での株主代表訴訟の実態

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第2 中小企業での株主代表訴訟の実態

1 会社資産の不当な処分又は管理 

 会社資産の不当な安値での処分は,取締役の善管注意義務違反の責任を負います(名古屋地判昭和58・2・18判時1079号99頁)。

 また,代表取締役が,会社所有の土地を,同代表取締役が実質的に経営する別会社に不当に安い賃料で賃貸したため,会社に生じた損害を賠償する責任を負う場合があります。

 

2 役員報酬

 株主総会を開催していないため,株主総会決議を経ていないで,役員報酬を支払ったのは,違法であるとして訴えられ損害賠償義務を負う例があります(東京地判平成12・6・22金商1126号55頁など)。

 

3 グループ企業の支援

 役員・株主構成や事業・取引面で密接な関係にあるグループ企業間において,グループの一員が経営不振に陥った場合,その倒産を防止してグループ全体の信用を維持し,あるいは関連事業を継続するなどの必要から,グループ内の他の会社が貸付けなどの金融支援を行うことは少なくありません。

 他方,企業グループを統轄する経営者は,資本関係などによりグループ企業の一員の破綻により,例えば,個人保証をしているなどの個人的利害関係があり,そのために,経営者の判断がゆがめられるおそれがあります。

取締役に与えられている裁量を超えた場合,また,十分な債権保全措置を講じることなく,倒産のおそれが具体的に予見可能であるにもかかわらず,新規に多額の無担保貸付け及び債務保証を行った場合には,善管注意義務違反及び忠実義務違反の責任を負う場合があります(最判平成12・9・28金商1105号16頁【東京都観光汽船事件】,最判平成20・1・28判タ1262号69頁【北海道拓殖銀行カブトデコム事件】など)。

 

4 株主の権利行使に関する利益供与

 株式会社は,何人に対しても,株主の権利の行使に関し,財産上の利益の供与(当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限ります。)をしてはなりません(会社法120条1項)。

 株式会社が会社法120条1項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは,当該利益の供与をすることに関与した取締役として法務省令(会社法施行規則21条)で定める者は,当該株式会社に対して,連帯して,供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負います(会社法120条4項)。

 会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で,当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は,旧商法(平成12年法律第90号による改正前のもの)294条ノ2第1項にいう「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」利益を供与する行為に当たり,善管注意義務および忠実義務に違反したとして,損害賠償責任を負います(最判平成18・4・10民集60巻4号1273頁【蛇の目ミシン株主代表訴訟事件】)。この場合は,会社が第三者を介して,当該株主から株式を買い取る場合とみられるからです。

 

5 競業避止義務違反,利益相反取引

 取締役は,次に掲げる場合には,株主総会(取締役会設置会社においては,取締役会)において,当該取引につき重要な事実を開示し,その承認を受けなければなりません(会社法356条1項,会社法365条1項)。

① 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。

② 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。

③ 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

 取締役が,事業の競合する他の会社の代表取締役として経営を行った事業に関し,その取締役の責任が認められた事例があります(名古屋地判平成19・10・25判タ1276号298頁など)。

 

6 自己株式の取得

 自己株式の取得が資本金の払戻と同様であり資本充実の原則等の理由に,自己株式の取得を原則として禁止していた旧商法210条に関して,自己株式の取得により取締役の損害賠償責任が肯定された判例があります(最判平成5・9・9民集47巻7号4814頁)。

現在では,①財源規制(会社法461条2項),②株主総会または取締役会などの手続を遵守している限り(これらの点は第3部第6章で詳しく述べています。),自己株式の取得は自由化されたので,対価が不当に高額な場合などを除いて,自己株式の取得が株主代表訴訟の原因となる可能性は少ないといえます。

ただし,分配可能額を超えて自己株式の取得をして,期末に分配可能額がマイナスを生じた場合には,業務執行者(会社計算規則159条2号3号)は,会社に対して填補責任(会社法465条1項2号3号)を負いますから,それが株主代表訴訟の対象になりえます。

 

非上場株式会社の取締役らが,中間決算における1株当たりの簿価純資産額を約3割上回る価格で自己株式を取得したことは,取締役の裁量を逸脱するものではなく善管注意義務違反ないし忠実義務違反を認めることはできないとした裁判例として大阪高判平成19・3・15判タ1239号294頁【ダスキン第二次株主代表訴訟事件】があります。非上場株式の評価の特殊性と経営判断の原則を前提に取締役らの責任が否定されています。

 

7 監視義務違反

取締役会設置会社においては,取締役会の構成員である取締役は,他の取締役の違法行為等を監視しなければならない義務があり,それを放置すれば善管注意義務違反となります。

旧商法266条ノ3に関してですが,上記のように解されていました(最判昭和48・5・22民集27巻5号655頁)。また,最判平成12・9・28金商1105号16頁【東京都観光汽船事件】において,旧商法266条1項5号に関してですが,代表取締役から相談を受けた他の取締役らにつき監視義務違反が認められています。

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