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村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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事業承継と遺留分

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相続

第10 遺留分

1 遺留分の意義・機能

 遺留分とは,被相続人の一定の近親者に留保された相続財産の一定の割合であり,被相続人の処分によって奪うことのできないものをいいます。

 本来,被相続人には自らの財産を自由に処分する権利があります。しかし,相続制度は,遺族の生活保障および潜在的持分の清算という機能を有しているとされます。

 そこで,被相続人の財産処分の自由と相続人の生活保障との調和の観点から設けられた制度が遺留分制度です。

      

2 遺留分算定の基礎となる財産

 被相続人が相続開始時において有していた全財産にその贈与した財産の価格を加えた合計の金額から,債務の全額を控除して算定されます(民法1029条)。

遺留分算定の基礎となる財産=「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」+「贈与した財産の価額」-「債務」

 

 贈与は相続開始前1年以内のものが加算されます(民法1030条前段)。これは,贈与契約の時点が基準になります。したがって,1年以上前に締結された贈与は,相続開始前1年以内に履行されたとしても,加算されません。

 相続開始前1年以内でなくても,遺留分権利者への損害を知って贈与した場合には,加算されます(民法1030条後段)。

 共同相続人への特別受益とされる場合は,1年以上前の贈与もすべて加算されます(民法1044条・903条)。

 不相当な対価でなされた有償行為は,当事者双方が遺留分権者に損害を加えることを知ってしたものについては,贈与とみなされます(民法1039条)。

 遺留分算定の基礎となる財産の評価時期は,相続開始時点です(最判昭和51・3・18民集30巻2号111頁)。過去の贈与は,受贈者の行為によって滅失したり価格の増減があったりしても,原状のままであるものとみなして,相続開始時を基準に評価されます(民法1044条・904条)。

 債権の場合,額面額ではなく,担保の有無,債務者の資力等を考慮した履行可能性を検討して,その価格を定めるべきとされます(大判大7・12・25民録24輯2429頁)。

 

3 遺留分権者と遺留分の割合

 遺留分権者は,兄弟姉妹を除く法定相続人,すなわち,配偶者,子,直系尊属になります(民法1028条)。子の代襲相続人も,子と同じ遺留分を持ちます(民法1044条・887条2項3項)。

 遺留分の割合は,直系尊属のみが相続人であるときは1/3,その他の場合は1/2になります(民法1028条)。遺留分を有する者が数人いる場合には,相続財産の1/2あるいは1/3のうち,相続分に対応する部分が遺留分になります(民法1044条・900条,901条)。

相続人

配偶者

直系卑属

直系尊属

単独相続の場合

1/2

1/2

1/3

配偶者と共同相続した場合

1/4

1/4

1/6

【事例】において,遺留分算定の基礎となる財産を2億円とした場合,妻乙の遺留分額は,2億円×1/2×1/2=5000万円となり,長男丙および次男丁の遺留分額は,2億円×1/2×1/4=2500万円となります。

 

4 遺留分減殺請求権

 遺留分減殺請求権とは,遺留分権利者となる相続人が,その遺留分を保全するのに必要な限度まで被相続人の贈与または遺贈の効果を消滅させる旨の請求をすることのできる権利をいいます。

遺留分侵害の財産処分は当然に無効となるわけではなく,遺留分権利者は遺留分減殺請求をすることにより,遺留分の侵害額を取り戻す必要があります。減殺請求の相手方は,減殺対象たる処分行為により直接に利益を得た受遺者・受贈者,その包括承継人ならびに悪意の特定承継人です(民法1040条1項但書,最判昭和57・3・4民集36巻3号241頁)。

 


5 遺留分減殺請求の対象

 減殺請求の対象は,以下のものです。

(ⅰ)遺贈(民法1031条)

(ⅱ)相続開始前1年前までの贈与(民法1031条)

(ⅲ)当事者双方が遺留分権者を害することを知ってなした贈与(民法1031条)

(ⅳ)特別受益としての贈与(最判平成10・3・24民集52巻2号433頁)

(ⅴ)不相当な対価による有償行為で当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたもの(民法1039条)

(ⅵ)「相続させる」旨の遺言(最判平成3・4・19民集45巻4号277頁)

 

 

 6 遺留分減殺請求の順序

 減殺請求の対象が複数あるときには,まず遺贈,次いで贈与が減殺請求の対象となされ(民法1033条),贈与が複数あるときは,新しい贈与から順に減殺されます(民法1035条)。ここでいう新旧関係は,契約締結の先後により決せられると解されています。

 遺贈は,目的物の価額に応じて減殺するのが原則です(民法1034条本文)が,遺言者は遺言で別段の意思表示をすることができ(民法1034条但書),その場合は,その順序に従います。

なお,裁判例(東京高判平成12・3・8高裁民集53巻1号93頁)は,死因贈与は,通常の生前贈与よりも遺贈に近い贈与として,遺贈に次いで生前贈与より先に滅殺の対象とすべきものと解するのが相当であり,特定の遺産を「相続させる」旨の遺言による相続は,遺贈と同様に解するのが相当であるとしています。

遺贈・「相続させる」旨遺言 ⇒ 死因贈与 ⇒ 最新の生前贈与

 


【遺留分減殺についての別段の意思表示の遺言文例】

 遺言者は,遺留分の減殺は,先ず長男に相続させる財産からすべきものと定める。

 

7 遺留分減殺請求権行使の方法

 遺留分減殺請求権は,必ずしも裁判上行使する必要はなく,遺贈等を受けた者に対して,意思表示することをもって足ります(最判昭和41・7・14民集20巻6号1183頁)。

相続人の一部の者に全財産が遺贈された場合における遺産分割協議の申入れには,特段の事情のない限り,遺留分減殺請求の意思表示が含まれていると解釈されます(最判平成10・6・11民集52巻4号1034頁)。相続人の一部の者に全財産が遺贈された場合,遺留分減殺請求権を行使しなければ,遺産分割の対象となる財産が存在せず,したがって遺産分割協議の申入れもすることができないためです。

 これに対して,遺言や生前贈与の無効の主張には,原則として遺留分減殺請求の意思表示を認めることはできないものと考えられます。なぜならば,遺留分減殺請求は有効な遺贈や生前贈与によって相続財産から離脱した財産の回復を目的とするものであり,遺贈や生前贈与が有効であることを前提にしていると解されるためです。

 

8 遺留分減殺請求権行使の期間制限

 遺留分権利者は,被相続人の死亡後より行使することができます。ただし,次の期間が経過した場合には行使することができません(民法1042条)。

(ⅰ)相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈があったことを知ったときから1年が経過したとき

(ⅱ)相続開始から10年が経過したとき

 

1年間の消滅時効の起算点については,単に減殺の対象である贈与または遺贈の存在を知るだけでは足らず,贈与または遺贈が遺留分を侵害し,減殺請求をし得べきことを知ることを要するとされます(大判明38・4・26民録11輯611頁)。

 訴えの提起によった場合には,訴状の送達の日が効力発生日となり,裁判外の意思表示によった場合には,意思表示の到達日が効力発生日となります。

 

9 遺留分減殺請求権行使の意思表示の方法

 前述のとおり,遺留分減殺請求権は,裁判上行使する必要はありませんが,期間制限があるため(民法1042条),行使した時期を明確にしておく必要があります。そこで,実務上は,内容証明郵便等を用いて請求するのが一般です。ここで,遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過により差出人に還付されたとしても,受取人が,不在配達通知その他の事情から,その内容が遺留分減殺の意思表示であることを推知することができ,また,受取人に受領の意思があれば郵便を受領することができたときは,遺留分減殺の意思表示は,留置期間が満了した時点で受取人に到達したものと認められます(前掲最判平成10・6・11民集52巻4号1034頁)。到達日を明確にするため,内容証明郵便は配達証明付きとするのが通例です。

 

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