中国側が新幹線技術は中国製と強弁する理由と背景(第8回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国側が新幹線技術は中国製と強弁する理由と背景(第8回)

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中国側が新幹線技術は中国製と強弁する理由と背景(第8回)

河野特許事務所 2011年12月16日 執筆者:弁理士  河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2011年9月号掲載)

 

(3)ブレーキの実用新型特許

 中国はブレーキについても国産化を進めている。博深工具公司の研究開発能力は高く、多くのブレーキ片を製造、販売している。博深工具公司は“高速鉄道車両ブレーキ片”の実用新型特許と、“高速列車ブレーキ片及び調製方法”の発明特許を有しており、既に時速300km以下の高速鉄道車両のブレーキ片の生産技術を有している。

 時速300kn以上の高速鉄道ブレーキ片は現在研究中であるが,すでに試験を通じた検証を行っており,外国製品と同様のレベルにまで達してきた。

 現在鉄道部の機械の受け座試験及び走行試験を待っているところであり,順調に進めば、2012年下半期に鉄道部の認証を獲得し、1年の試用段階を経て,2013年末には量産される見込みである。

 請求項は以下のとおりである(参考図12)

 高速鉄道車両ブレーキ片は燕尾板1,摩擦部2及び基板3により構成され、

 基板3の一平面は摩擦部2に対し一体に連接されており,

 基板3の他平面上には燕尾板1が設けられ,

 燕尾板1は基板3に対し連接固定されている。

 本実用新型特許は従来の無石綿半金属樹脂ベースのブレーキ片が有する各種問題(短寿命、低放熱性、低速車両にしか利用できない)を解消したものある。本実用新型によれば加工が簡単であり,制造工程が短く,生産效率に優れる。また本実用新型は放熱に優れ,熱安定性が良く,制動・性能が安定し、長寿命化を図ることができる。 

 参考図12

 

(4)ブレーキの発明特許

 最後に博深工具公司の高速列車ブレーキ片及び調製方法を紹介する。本発明特許は、粉末冶金材料の技術領域に属し,半金属基の合成ブレーキ片摩擦係数の不安定問題を解消するために用いられる。改良後のブレーキ塊材料は以下の重量単位の粉末原料により組成される。

 具体的には、

銅粉 25-55、ニッケル粉5-20、鉄粉4-12、マンガン粉1-4、クロム粉1-9、グラファイト5-20、エメリー5-10、タングステン粉1-8、二酸化チタン粉3-6、二酸化ケイ素3-10、チタン粉1-4、アルミニウム粉1-5を含み、粒度は平均200目(1インチ当たり編み目の数)より細かいことを特徴とするものである。

 このように本発明のブレーキ塊は金属基複合原料を用いて生成される。基体原料は高い導熱率及び良好な塑性の銅合金を備え,配合した原料の合理的な選択及び最適化した組成成分比率により,調製したブレーキ片は様々な効果を有する。具体的には基体は耐熱性能に優れ,裂け目が発生せず、摩擦により温度が上昇した状況下でも、摩擦係数は急変しない。さらに本発明に係るブレーキ片は摩耗率が低く、長寿命化を図ることができる。

 

5.終わりに

 約6年間にわたる中国高速鉄道の開発過程、特許出願動向及び特許の内容を分析することで外国からの技術をベースとしつつも改良を施し、その改良点について着実に権利化を図っていることが理解できる。

 本稿では中国高速鉄道についての問題点について述べたが同様の問題は他の産業分野でもおこっているであろう。技術は日々進歩するものであり、新たな技術については貪欲に権利化を行うと共に、市場となる他国においても特許網を構築しなければならない。

 中国企業は5-6年前から国際的な特許強化戦略をとっている。中国国内の発明特許出願は2010年度に日本の年間35万件を追い抜き、39万件に達した。今期も増加傾向にあり上半期で21.8万件、即ち年間42万件を越える勢いにある。国際特許出願も韓国を追い抜き世界第4位にまで順位を上げてきた。第11期全国人民代表大会第4回会議で採択された「第十二期五ヵ年計画(十二五)綱要」によれば、2015年までに発明、実用新型、外観設計の3種類の年間出願件数を現在の120万件から200万件まで引き上げることを国家目標としている。この計画通りに事が進むとすれば中国における発明特許出願件数は2015年に約66万件に達し、米国を抜いて世界一となる。

 韓国サムスン電子の李健熙(イ・ゴンヒ)会長は、2011年7月末「ソフト技術、S(Super)級人材、特許」を、サムスン電子の3大重要課題として示した。アジア間では日本、韓国、台湾に中国を加えた競争が世界各国市場においてますます激化していくであろう。特許に対する重要性、危機感が他国に比して低下してきている日本はこの中国高速鉄道事件を教訓に戦略を見直すべきではないであろうか。

以上

 

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