中国実用新型特許の創造性判断(第4回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国実用新型特許の創造性判断(第4回)

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中国特許判例紹介:中国実用新型特許の創造性判断(第4回)

~組み合わせが考慮される技術分野は発明特許よりも狭い~

河野特許事務所 2011年10月31日 執筆者:弁理士 河野 英仁

      重慶万馳オートバイ部品有限公司等

                                無効宣告請求人、一審原告、二審上訴人

                 v.

        知識産権局専利復審委員会

                                一審被告、二審被上訴人

 

5.結論

 北京市高級人民法院は請求項1について専利法第22条第3項に適合、即ち創造性を有するとして復審委員会の審決および北京市第一中級人民法院の判決を支持する判決をなした。

 

 

6.コメント

 日本の近年の特許実務では、実用新案の進歩性について議論となることがほとんどない。日本国実用新案法第3条第2項は

「実用新案登録出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる考案に基いてきわめて容易に考案をすることができたときは、その考案については、同項の規定にかかわらず、実用新案登録を受けることができない。」

と規定している。

 

 実用新案法においては条文上「基づいてきわめて容易に」と規定している点で、単に「基づいて容易に」と規定する特許法第29条第2項と相違する。しかしながら、実務上は発明の進歩性と実用新案の進歩性に明確な相違はない。

 

 中国においては、実用新型特許は発明特許・外観設計特許と同程度に重要視されており、日米企業が積極的に権利化を図っている。係争となった場合は、カウンターとして無効宣告が相手方から請求されることは必至であるため、発明特許との創造性判断の違いを押さえておくことが重要となる。本事件で明らかになったように、定量化が困難な創造性判断において、実用新型特許は参照することが可能な技術分野が制限される。

 

 発明特許の創造性判断にあたり、参照される技術分野は以下のとおりである。

 

 発明特許については、当該発明特許の属する技術分野のみならず、それに隣接若しくは関連する技術分野、及び当該発明により解決すべき技術的課題であって当該分野の技術者が技術的手段を探り出すこととなる他の技術分野を合わせて考慮しなければならない。

 

 すなわち、実用新型特許では最も近い引用文献中に他の技術分野に至らせる明確な啓示が要求されている点で、そのような要求のない発明特許と相違する。さらに、引用できる文献数にも制限がある。

 

 発明特許については、1つ、2つ、或いは複数の現有技術を引用してその創造性を評価することができる。

 実用新型特許については、一般的に1つ、または、2つの現有技術を引用してその創造性を評価することができる。「単純な組み合わせ」に係る現有技術により成された実用新型特許の場合は、状況に応じ複数の現有技術を引用してその創造性を評価することができる。

 

 すなわち、実用新型特許では引用文献数は原則として2つまでに制限される点で、そのような制限がない発明特許とは相違する。中国では以上述べた2つの制限規定を用いて、発明特許と実用新型特許との創造性のレベルを区別している。

 

 なお、本事件においては審査官の特許権評価報告[1]において創造性なしと判断されていたが、復審委員会及び人民法院ではその判断が覆り、創造性有りと判断された。ここで、特許権評価報告とは、実用新型特許及び外観設計特許の特許性に関する審査官の見解をいう。専利法第61条第2項は以下のとおり規定している。

 

専利法第61条第2項

 特許権侵害の紛争が実用新型特許又は外観設計特許に関わる場合、人民法院又は専利業務管理部門は、特許権者又は利害関係者に、国務院特許行政部門により係争実用新型又は外観設計に対する調査、分析及び評価の上で作成された特許権評価報告を提出するよう要求し、それを特許権侵害の紛争を審理、処理するための証拠とすることができる。

 

 特許権評価報告は審査官の一見解にすぎず、法的拘束力を有さない。あくまで特許権評価報告は民事訴訟において人民法院が訴訟を中断するか否かの判断材料とするものにすぎない[2]。特許有効性の最終的な判断については必ず復審委員会の無効宣告請求を経なければならない。

 

判決 2009年7月23日

以上


[1] なお、本事件では特許権評価報告制度の前身である特許検索報告制度による報告書が作成されていた。

[2] 専利法第61条第2項 特許権侵害の紛争が実用新型特許又は外観設計特許に関わる場合、人民法院又は専利業務管理部門は、特許権者又は利害関係者に、国務院特許行政部門により係争実用新型又は外観設計に対する調査、分析及び評価の上で作成された特許権評価報告を提出するよう要求し、それを特許権侵害の紛争を審理、処理するための証拠とすることができる。

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