見ることは認めること

研修や授業で二人一組で何かをしゃべるワークをすると、しゃべらないペアがいます。二人を観察をすると、お互いがお互いを見ないのです。「お互いに見て」という代わりに「相手の人は嫌い？」と尋ねると、そんなことはない、と言う答えが返ってきます。「じゃあ、しゃべれる？」と聞くと、はい、という答えが返ってきます。でもお互いに見ないから、話が始まらないのです。見たり、見られたりするのは、恥ずかしいと思っているようです。

ある法務教官に聞いた話です。法務教官とは、主に刑務所や少年院にお勤めの方です。少年院に収容された人で、「ここで初めて人間らしく関わってもらった」と言った人がいたそうです。では、人間らしく関わる、とは具体的には、どういうことをすることでしょうか。

人間関係で、嫌なこと、好ましくないこと、気分が良くないことで、多くの人に共通することは、無視されることです。見ないことは、あたかも存在していないように思えます。

私たちは、出来事や物事を拡大解釈することができます。それによって応用学習ができるとても役にたつ機能です。しかしこの機能は都合のいいこと、都合の悪いこと、を都合よく自動的に選択して適用してくれたらいいのだけど、何でも拡大解釈することが出来ます。ただどの程度、どのように解釈するかは、それぞれの人によって異なりますから、解釈の共通項目について解釈することは困難です。

例えば、人が私を見ないということは、私の存在は認められないのだ、なんてことに拡大解釈すると、それは辛い出来事となるでしょう。

あなたの存在を認めています、という意思表示の最も簡単で重要な方法は、相手を見ることです。しかし、見るという方法は、人によっては最も難しい方法であるかもしれません。人間はとても複雑です。

もし嫌いな人が目の前にいたら、私たちはおそらく見ないように努力をするでしょう。もし好きな人が目の前にいたら、私たちは、見たい、という衝動を抑えきれないでいるでしょう。恋人達は見つめあうように、お母さんが赤ちゃんを見て、そして赤ちゃんがお母さんを見てるように、相手を見ることは、お互いに存在を認め合うために、最も簡単で重要な方法です。