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早わかり中国特許
~中国特許の基礎と中国特許最新情報~
第3回 特許を受けることができる発明(第2回)
河野特許事務所 2011年10月17日 執筆者:弁理士 河野 英仁
3.公序良俗に反する発明
(1)法律に違反する発明
専利法第5条は法律、社会道徳に違反し、又は公共の利益を害する発明創造に対しては、特許権を付与しないと規定している。ここで、法律に違反する発明創造とは、例えば、賭博用装置、麻薬吸飲用器具、国家貨幣・手形・公式文書・証明書・印鑑・文化財等の偽造装置等である。これらの他、発明創造が法律に違背しないものの、濫用された結果違法となるものも特許権が付与されない。例えば、医療用の各種毒薬、麻酔薬、鎮静剤、覚醒剤および娯楽用の駒、カード等である。
ただし、発明の実施のみが法律により禁止されるとしても、特許権は付与される点に注意すべきである。実施細則第10条は以下のとおり規定している。
実施細則第10条
専利法第5条にいう法律に違反する発明創造には、その実施のみが法律により、禁止される発明創造は含まれない。
すなわち、対象製品の生産、販売または使用が法令で制限・規制されていようが、当該製品自体とその製造方法は、専利法第5条に規定する「法律に違反した発明創造」には該当しない。例えば、国防用の各種武器の生産、販売または使用は法令で制限されているものの、これらの武器自体およびその製造の方法は専利法による保護対象となる。
(2) 社会道徳に違反する発明創造
社会道徳に違反する発明とは、例えば暴力・虐殺または淫猥な図・写真を伴う外観設計、医療目的以外の人工器官または代用品、人間と動物の交配方法、人間の生殖系遺伝子の同一性を改変する方法または生殖系遺伝子の同一性が改変された人間、クローン人間あるいは人間のクローン方法、人胚胎の工業または商業目的での応用、動物に苦痛を引き起こす恐れがあり、かつ人間・動物の医療に対し実益の無い動物遺伝子の同一性を改変する方法等である。これら社会道徳に反する発明の特許権が付与されない。
(3)公共の利益を害する発明
公共利益に反する発明とは、発明創造の実施または使用により公衆或いは社会に危害をもたらすか、若しくは国家、社会の正常な秩序に影響を与えるものをいう。例えば、窃盗者の両眼を失明させる窃盗防止装置及び方法等、他人の身体に障害を起こすまたは財産の損害を手段とする発明創造が該当する。
発明創造の実施または使用により、深刻な環境汚染、重大なエネルギー或いは資源の浪費、生態系の破壊、公衆の健康に危害をもたらすようなものも、特許権が付与されない。特許出願の文字または図形が、国の重大な政治事件または宗教事件に係っており、公衆の感情または民族的感情を傷付けるもの、若しくは封建迷信を宣伝するものも、特許権が付与されない。
ただし、濫用により公共利益を害するおそれがある発明創造、または、積極的な効果を奏する一方で、副作用等の欠点を持つ発明創造については、「公共の利益を害する」発明には該当しない。例えば、人体に対し効果を有するものの一定の副作用を併せ持つ薬品が該当する。
(4)一部公序良俗違反の取り扱い
専利法第5条第1項に該当する発明は拒絶理由の対象となるが、発明の一部が専利法第5条第1項の規定に該当する場合、審査官により当該部分を削除せよとの通知がなされる。ここで出願人が当該部分を削除すれば本拒絶理由は解消するが、削除しなかった場合、専利法第5条第1項の規定に基づき拒絶される。
例えば、所定点数以上で現金が排出されるゲーム装置の場合、現金が排出される部分のみが専利法第5条第1項の規定に反することとなる。この場合、審査官により、現金が排出される部分を削除せよとの通知がなされる。当該部分を削除し、単純なゲーム装置へ補正すれば他の特許要件具備を条件に特許権が付与される。
(5)遺伝資源により完成された発明
専利法第5条第2項は、法律、行政法規の規定に違反して遺伝資源を獲得・利用した場合、当該遺伝資源により完成された発明創造に対して、特許権が付与されない旨規定する。ここで、「法律と行政法規の規定に違反して遺伝資源を獲得・利用」とは、遺伝資源の入手・取得獲得あるいは利用に際して、中国の関連法律、行政法規の規定に基づき、事前に関連行政管轄部門による承認若しくは関連権利者による承諾を取得していないことをいう。
例えば、『中華人民共和国牧畜法』および『中華人民共和国禽畜遺伝資源入出国と対外的合作・研究利用の審査・承認弁法』の規定事項によれば、中国禽畜遺伝資源保護名鑑に掲載された禽畜遺伝資源を外国に輸出する場合、関連する審査承認手続きを行う必要がある。中国の国外へ輸出された中国禽畜遺伝資源保護名鑑にある禽畜遺伝資源について、審査承認手続きを行っていないとすれば、これに依存して完成された発明創造に対しては特許権が付与されないこととなる。
なお、発明創造が遺伝資源の遺伝機能を利用して完成したものである場合、実施細則第26条[1]の規定に基づき、願書にその旨の説明を行うと共に、国家知識産権局の指定用紙にその旨記入しなければならない。
[1] 実施細則第26条
専利法にいう「遺伝資源」とは、人間、動物、植物又は微生物に由来し、遺伝機能単位を含有し、かつ実際的な又は潜在的な価値を有する材料をいう。特許法にいう「発明創造が遺伝資源に依存して完成した」とは、発明創造が遺伝資源の遺伝機能を利用して完成したことをいう。発明創造が遺伝資源の遺伝機能を利用して完成したものである場合、出願人は願書に説明し、かつ国務院特許行政部門の指定用紙に記入しなければならない。
(月刊ザ・ローヤーズ2011年7月号掲載)
(第3回へ続く)
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