(続き)・・さて上司といえども人間ですので、欠点もあれば失敗もします。もし上司が明らかなミスをするか、部下や部署のスタッフに迷惑をかけてしまったような場合には、どのように対処すべきでしょうか。実際の職場内でよくある光景は、上司がミスをした言い訳をする、あるいは他人や他部署、社外環境などのせいにする、等々です。「私は絶対に間違っていない!」とか「あいつらが分かっていないだけだ!」などと、自分の正当性を主張する上司が意外と目立ちます。
周囲から優秀とみられている上司ほど自分のミスを決して認めない傾向があるようですが、そのような態度はスタッフや職場、そして仕事にどのような影響を与えるのでしょうか。いくら仕事ができる優秀な上司であってもこういう頑なな態度では、部下やスタッフは上司に対して何も言えなくなってしまいます。部下は上司に対して表面だけ取り繕うような態度を示し、本心からは信頼を寄せなくなります。また上司が余りに横暴な態度を示すと、部下によってはメンタル面に不調を来たしてしまいます。
悪影響を受けるのは部下やスタッフだけではありません。組織のリーダーは常に内外からの意見やフィードバックによって、自分自身の思考や行動を是正していく必要がありますが、部下やスタッフの意見に耳を貸さず、自分の誤りを認めないような態度は、上司自身の成長や自己改革のチャンスを逃がし、自分の殻に閉じこもった、器の小さい上司となってしまいます。そしてミスを認めないことで、さらなる大きなミスの伏線になります。つまりミスを認めないことで上司自身が最も損をするのです。
上司の頑なな態度がエスカレートすると、スタッフは上司のミスに対してだけでなく、社内や部内に存在する問題点に対しても発言する意欲が低下し、事なかれ主義が蔓延します。そのために数々の問題は、触れてはならない「タブー」と化して職場に蓄積していきます。「裸の王様」として祭り上げられたワンマン上司の周囲は「YESマン」で固められるようになり、意欲のある若手社員から次々と退職していってしまい、エネルギーの低い鬱屈した職場となって、遅かれ早かれ衰退していきます。
このような事態を避けるには、上司は日頃から部下を含むスタッフの意見に真摯に耳を傾ける必要があります。「もし何か私のやり方に問題があったら、いつでも指摘してくれ」と伝えておいて、スタッフが問題を感じたら上司にフィードバックできる環境を整えておきます。部内の定期的な会議の場などでも、「私の方針や態度に、何か問題はなかっただろうか?」とスタッフに質問し、常に自分自身の言動を周囲からチェックしてもらう環境を整えることが、上司自身や職場のためにもなるのです。
そして実際にミスをするかスタッフに迷惑をかけた場合には、「自分のミスで迷惑をかけてしまった。申し訳ない」と素直に謝り、「ぜひ自分の行動を改善したいが、何かアドバイスはないだろうか」とアドバイスを求めます。そしてスタッフの語るアドバイスを熱心に聞いてメモし、「アドバイスどうもありがとう!」と感謝します。上司のこのような柔軟で前向きな態度によって、たいへん風通しのよい職場となります。そして部下やスタッフは上司への信頼を増し、自分も自己改革しようという気になるものです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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