日本福祉大学経済学部経済学科准教授遠藤秀紀氏が今年4月に発表した「訪問介護事業所の存続期間と地理的集中」によると、後発の訪問介護事業所の存続期間が短くなるのは、利用者確保が困難になるからと結論付けています。集計したデータ等から、先行する事業所の存続期間が長ければ長いほど、後発事業所は不利であることを示唆しています。
私も以前から、新規参入事業者が1年ないし数年で廃業する傾向が強まっていることに注目していたので、何か原因があるだろうと考えていました。色々と調べているうちに前述の遠藤准教授のレポートを見つけ、読ませていただいて納得できました。
介護事業で新規参入するならば、事前に参入する地域の同業他社の運営状況などや潜在的利用者数(要介護高齢者数など)を調査し、後発参入の障害となる問題がどのようなものかを十分に確認する必要があります。すでに事業を開始している訪問介護事業者の多くは、「ここに事務所物件が空いていたから」とか「とにかく訪問介護をやりたかったから」というような理由にもならない理由で事業を始めています。
指定介護保険事業者の調査に関わっていて私が感じるのは、調査で訪問した事業所の管理者や経営者が営業地域内の同業他社他事業所がどのくらい存在するか、潜在顧客(利用者となり得る数)がどのくらいいるかを知らないで事業を運営していることです。
介護事業への参入を安易に考えるのは危険です。勿論、新規参入を否定はしませんが、事前の調査を慎重に行い、計画的に準備しなければ後発事業者の不利を払拭することは難しいと言えます。今では先発の訪問介護事業所でも思うように利用者を確保できずに廃業に追い込まれるケースも増えています。
新規参入を支援する起業コンサルタントや行政書士さんなどの指導により、めでたく開業できたとしても問題はその後の事業の継続性を担保できるかどうか、事業者としてのポテンシャルをどのように見出していくのか、それが重要なのです。
私は基本的に介護事業の立ち上げに関わる開業、起業コンサルティングをしていませんが、既存の介護事業者の業務改善などを指導、支援しています。しかも、ポテンシャルが感じられる事業者でなければ関わらないことにしています。なぜならば、すでに介護サービスを利用している利用者や今後利用するはずの潜在的利用者にとって、継続的に運営できる事業者であることがもっとも重要だからです。
次期法改正は、益々新規参入が難しくなる制度設計になると思われます。簡単に言えば、今後の介護事業者に求められるのは、職員、従業者のキャリアアップを行うために中長期的な事業計画に基づいた経営が出来ることだと考えられます。ただ単にサービスを提供して介護報酬を受け取るだけの介護事業者ではなく、事業の継続性を高める経営を求められ始めていると受け止めるべきでしょう。
私は前述のレポートを読んだ感想などをすぐに遠藤准教授にEメールで伝えました。全く初めてメール交換させていただいたにもかかわらず、近日中にお会いして意見交換、情報交換するお約束をしました。大変楽しみにしています。
なお、先生のレポートにご興味がある方は是非ご覧ください。
http://www.n-fukushi.ac.jp/research/pdf/discussion/DP-2011-01.pdf#search='訪問介護事業所の存続期間と地理的集中'
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