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中国特許判例紹介:中国における補正の範囲(第3回)
~意見書の記載を考慮して補正の範囲を判断した事例~
河野特許事務所 2011年6月10日 執筆者:弁理士 河野 英仁
セイコーエプソン株式会社
一審原告、二審上訴人
v.
知識産権局専利復審委員会
一審被告、二審被上訴人
(1)請求項1について
北京市高級人民法院は、当初明細書および請求項の記載および意見書における陳述内容に基づき、「半導体メモリ装置」を「メモリ装置」とする補正は新規事項の追加に該当しないと判示した。
技術専門用語および技術特徴に対する理解は、当業者の観点から、その文脈を判断するのが原則である。800特許の当初明細書には、解決課題および背景技術として以下の記載があった。
解決課題:「印刷装置を製造元に持ち込む必要があり、かつ、制御データを記録したメモリ装置も変換しなければならないだからであり・・・」、
背景技術:「その中で、インクカートリッジ上に半導体メモリ装置およびメモリ装置に連接する電極を設置する」
その他、当初明細書およびその他の部分は一貫して「半導体メモリ装置」を使用していた。また背景技術の「半導体メモリ装置およびメモリ装置に連接する電極を設置」の「メモリ装置」は文脈から「半導体メモリ装置」のことであることは明らかである。
当初請求項および明細書の記載によれば、当業者が直接的に、疑う余地も無く、確定できるのは、「半導体メモリ装置」の意義上で使用している「メモリ装置」である。補正前または補正後の技術方案にかかわらず、「メモリ装置」は実際には「半導体メモリ装置」の意義で使用されており、かつ、新たな技術方案を構成していない。
さらに、原告は実質審査段階の意見書において、「メモリ装置」に対し、明確な限定を行っていた。すなわち、「メモリ装置」に関し、意見陳述書において、以下のように述べた。
「出願人は「メモリ装置」は図7(b)に示す「半導体メモリ装置61」と解釈している」
確かに復審委員会および北京市第一中級人民法院が述べるとおり、「メモリ装置」は広い概念であり、「半導体メモリ装置」に限らない。しかしながら、補正が範囲を超えるか否かの判断主体は当業者であり、当業者は専門知識背景を備える通常の技術者であり、所属領域の技術内容を理解できるものでなければならない。
「メモリ装置」は、その普遍の含意を有し、半導体メモリ装置を含むだけでなく、磁気バブルメモリ装置、強誘電体メモリ装置等多くの異なる類型を含むが、本特許の所属する特定のプリンタカートリッジ領域において、背景技術中において既に明確に「半導体メモリ装置」として指摘している。
北京市高級人民法院は、当初明細書、請求項および意見書の陳述から、当業者であれば補正後の「メモリ装置」は、下位概念である「半導体メモリ装置」であって、上位概念である「あらゆるメモリ装置」までをも含むと解釈することはできないと判示した。以上のことから、請求項1について新規事項追加に当たると判断した復審委員会の審決および北京市第一中級人民法院の判決を無効とした。
(2)請求項8について
北京市高級人民法院は当初明細書および請求項に記載されていなかった「記憶装置」に関する補正は新規事項に該当すると結論づけた。
北京市高級人民法院は、請求項8は請求項1の「メモリ装置」の補正とは明確に区別できると述べた。800特許の請求項および明細書には「半導体メモリ装置」の記載はあったものの、「記憶装置」の記載がなかった。原告は、実質審査段階において意見書中、「記憶装置」に対し、明確に限定をなしていると主張したが、北京市高級人民法院は上述したとおり、ただ意見書の言及のみで、補正を許可する依拠とすることはできないと述べた。
(第4回へ続く)
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