米国特許判例紹介:機能的クレームに対する記載要件(第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例紹介:機能的クレームに対する記載要件(第2回)

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米国特許判例紹介:機能的クレームに対する記載要件(第2回)

~ソフトウェア特許の構造とは~

In Re Kats Interactive Call Processing Patent Litigation, LLC,

河野特許事務所 2011年6月1日 執筆者:弁理士  河野 英仁

3.CAFCでの争点

どこまでアルゴリズムを記載すれば記載要件を満たすか?

地裁で無効と判断されたMPFクレームの各構成要件は以下のとおりである。

 

(a)863特許のクレーム96,98,99:「少なくとも一定の前記応答データ信号を処理する手段」

(b)547特許のクレーム11,18:「前記発呼者データ信号を受信し処理する分析構造」

(c)551特許のクレーム19:「記憶メモリに接続されており、資格構造により当該資格に従う一定の個人発呼者に関する少なくとも一定のデータを処理する分析構造」

(d)551特許のクレーム21,33、065特許のクレーム13:「発呼者により入力された顧客番号データを受信し、顧客番号データを記憶し、状況に応じて着信とオペレータ端末とを対応付けする処理手段、該処理手段は視覚的に顧客番号データを表示する」

(e)285特許のクレーム61:「オペレータにより入力された発呼者情報データを処理する前記転送手段に接続された処理手段」

 

 明細書にはハードウェアとして汎用プロセッサだけが開示されており、上述したクレームの機能を実行するのに必要なアルゴリズムが開示されていなかった。

 反対にありとあらゆる機能についてアルゴリズムの記載を要求するとすれば、明細書の記載が膨大・冗長となり、明細書作成コストも増大する。

 本事件では、具体的にどの程度まで機能に対応するアルゴリズムを開示していれば足りるのかが争点となった。

 

4.CAFCの判断

権利範囲がどこまでをカバーしているか当業者が推測できない場合、不明確となる

 CAFCは、551特許のクレーム21,33、065特許のクレーム13:

「発呼者により入力された顧客番号データを受信し、顧客番号データを記憶し、状況に応じて着信とオペレータ端末とを対応付けする処理手段、該処理手段は視覚的に顧客番号データを表示する」の内、

状況に応じて着信とオペレータ端末とを対応付けする処理手段

に対応するアルゴリズムが明細書に記載されていないことから、不明確であると判断した。

 

 CAFCは機能クレームに対する記載要件について争われた以下の3事件を挙げた。以下各事件の内容を説明する。

 

(1)WMS事件[1]

 WMS事件において問題となった特許はスロットマシンをクレームしていた。クレームは「各スロットリールの角度方向の位置を表わす複数の数字を割り当てる手段」である。

 

 地裁は、当該手段が、リールの角度位置を表す番号割り当て機能を実行するために使用される可能性ある「全てのテーブル、公式、アルゴリズム」をカバーすると判断した。

 

 しかしながらCAFCは地裁の判断を無効とし、当該手段は、明細書に開示されたアルゴリズムだけをカバーするものと解釈した。当該手段に対応する構造は、汎用コンピュータではなく、クレームに記載されたアルゴリズムを実行するための特別な目的のコンピュータだったからである。

 

(2) Harris事件[2]

 Harris事件は、信号処理特許に関し、信号が移動する媒体の分散的効果をシミュレーションする「時間領域処理手段」をクレームしていた。地裁は明細書の記載を参酌し、機能的記載である「時間領域処理手段」に対応する構造は実施例中の「シンボルプロセッサ」であると認定した。

 

 CAFCは、コンピュータにより実行されるMPFクレームの対応する構造は「アルゴリズムである」と述べた上で、実施例中の「シンボルプロセッサ」はなんらアルゴリズムを開示していないことから、クレームに記載の「時間領域処理手段」の対応構造が「シンボルプロセッサ」であるとした地裁の判断を無効とした。

 

(3) Aristocrat事件[3]

 Aristocrat事件において争点となった特許は、表示画像を制御し、プレーヤの選択に応じてゲーム用の所定の配列の組み合わせを定義し、所定の配列記号が表示された場合に賞を付与する「制御手段」を備えるスロットマシンである。

 

 クレームの制御手段に対応する構造として開示されていたのは、「適切にプログラムされた」標準マイクロプロセッサベースのゲーム機だけであった。CAFCは、クレームの機能に対応する構造、即ちアルゴリズムが欠如しているため不明確であると判断した。

 

 以上の3事件をまとめると、純粋な機能的クレームを記載した場合、単にプロセッサ等のハードウェアを対応する構造として記載するだけでは不十分で、むしろプロセッサが機能を実行するためのアルゴリズムを記載しなければならない。


[1] WMS Gaming, Inc. v. International Game Technology, 184 F.3d 1339 (Fed. Cir. 1999)

[2] Harris Corp. v. Ericsson Inc., 417 F.3d 1241 (Fed. Cir. 2005)

[3] Aristocrat Technologies Australia Pty Ltd v. International Game Technology, 521 F.3d 1328 (Fed. Cir. 2008)

(第3回へ続く)

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