(3)「新型うつ病」が急増した時代背景とは?
そのような経過をたどる新型うつ病が増加している時代背景としては、どのようなものがあるのでしょうか。そこには「教育」と「コミュニケーション」、「ライフスタイル」の問題が特に大きく関与しています。
教育に関しては、最近の少子化を背景として過保護な親が目立ちます。大事に育てられ、親は何でも要望を叶えてやり、子供は我慢することを覚えないで育ちます。その結果、職場での昨今の厳しい現実に対応できず、不適応を起こしてしまいます。
また幼少期にパソコンや携帯電話、ゲーム機器などに囲まれて育ち、同年齢の子供と遊ぶ機会が少なく、コミュニケーションや感情の表現、適切な自己主張の仕方を学ばずに成長してしまいます。その結果、周囲の人の痛みを理解し、妥協点を探って折り合いをつけることが出来ず、それが職場不適応を助長してしまいます。
さらに昼夜逆転の生活や運動不足、食生活や栄養バランスの破綻などといったライフスタイルの乱れが、脳内の神経細胞の機能を低下させます。その結果ストレス耐性を低めてメンタル不全の準備状態をつくり、ちょっとしたストレスを引き金にして、心の病を容易に発症してしまうのです。
(4)部下に自発的に考えさせ、行動させるアプローチを
さてそのような新型うつ病に対処する場合、どのような点に留意すればよいのでしょうか。従来型のうつ病と異なり、休養を取らせて薬を服用するといった対応では不充分で、そこには人を「育てる」視点と取り組みが求められます。
すなわち従来型と異なり、基本的には過労がうつ症状の原因ではないので、仮に休養を取っても性格的な問題点には何ら変化がなく、根本的な解決にはなっていません。復職後も同じような対応を取っていると、遅かれ早かれ同様の問題が浮上してくることになります。
例えば本人が「上司が合わないので職場を異動させてほしい」と言い出した場合に、安易にその要求に従ったとすると、一応その場では丸く収まりますが、本人にしてみれば「要求が通った」などと不健全な学習をしたことになり、近いうちに再び職場不適応を引き起こすのは目に見えています。
そのような事態を避けるためには、本人の感情や体験を受け入れ尊重しつつも、毅然とした態度を示し、職場としての規範意識や社会人としての常識を指し示す必要があります。本人の要求が職場のスタッフに迷惑になることがあると明言し、他人の痛みを理解させるようにすることが大切です。
それと並んで、本人の自主的な判断や行動を促すことが重要になります。若手社員が不適応を起こす背景の一つとして、上司や周囲から仕事を押し付けられた、と感じることがあります。それを防ぐには若手に自分で考えさせ、自分から行動させるような動機付けが必要です。
その目的で推奨されるのが「コーチング」的アプローチです。コーチングは相手の自発的な行動を促すコミュニケーション法で、ビジネス界や教育界などに於いて若手の育成にも活用されています。若手に対し「今の職場で一番成し遂げたいことは何か?」「そのために大切な行動は何か?」などと問いかけ、自主性を尊重することが、ひいては新型うつ病の予防にもつながるのです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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病気を治したり予防するにあたり、いちばん大切なのは、ご本人の自然治癒力です。メンタルヘルスを軸に、食生活の改善、体温の維持・細胞活性化などのアプローチを複合的に組み合わせて自然治癒力を向上させ、心と身体の両方の健康状態を回復へと導きます。
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