(続き)・・上記のような副作用の深刻な抗がん剤とは一線を画した新しい薬剤も登場しています。例えばB細胞性の悪性リンパ腫に対するリツキシマブという薬剤は、B細胞に特有の分子構造に特異的に働き、腫瘍化したB細胞のみに殺傷作用をもたらします。そのために白血球減少や脱毛、悪心嘔吐のような深刻な副作用は殆んどありません。但しイレッサなど一部の薬剤では間質性肺炎など深刻な副作用が知られており、新薬だからといって手放しで安心はできません。
抗がん剤と並んでガンに広く用いられているのが放射線治療です。放射線はラジウムなどの鉱石から放出され、ガン細胞のDNAを損傷したり細胞質を破壊したりして抗腫瘍効果を発揮します。腫瘍が比較的狭い範囲に留まっている場合には著しい腫瘍の縮小効果がみられることがありますが、遠隔転移などで全身に拡がった場合には適応となりません。また抗がん剤同様に深刻な副作用があり、決して楽にできる治療とはいえません。
放射線治療の応用として重粒子線やガンマナイフなどがあり、脳腫瘍など手術の難しいガンに用いられています。これらの最新の治療法は高線量の放射線をピンポイントで腫瘍に照射する一方、周囲の正常細胞への影響を軽減することを狙った照射法です。うまく腫瘍にヒットすれば驚くほどの縮小効果が期待されますが、最先端の治療法だけあって極めて高額な医療となっており、おいそれと簡単に受けられるものではないようです。
一方ではガンに対する免疫力を向上させようという治療法も研究され、一部に普及しています。我々人間は決してガンに対して無防備ではなく、NK(ナチュラルキラー)細胞をはじめとしてガンと戦う免疫細胞を備えています。それを活性化するための各種の治療法があり、リンパ球移入療法、丸山ワクチン、蓮見ワクチンなどがそれに該当します。これらの治療法は末期ガンなどに奏功したという報告が多数ある一方、自由診療のため医療費がかさむという課題があります。
さてそのような手術以外の治療法も駆使して、ガンは一体どのくらいの確率で良くなるのでしょうか。ガンの種類によってかなりの差がみられるものの、早期のガンを除いてかなり現実は厳しいと言わざるを得ません。若年者の一部の悪性リンパ腫や小児の一部の白血病などでは抗がん剤の投与で著しく改善し、治癒率も80~90%に及ぶこともありますが、それはごく例外的な現象で、大半のガンでは抗がん剤などの効果は限定的、一時的なものに留まるのが実情です。
新しい抗がん剤が臨床試験を経て認可される場合、だいたい20~40%の症例で何らかの効能がみられた場合に認可される、という基準があります。言い方を変えると、半分以上の人に効能がみられなくとも抗がん剤として認可され得る、ということです。実際に、胃ガンや大腸ガン、肺ガンなどの固形ガンの多くは抗がん剤の効果が極めて限定的で、腫瘍縮小効果はもとより延命効果も大した見込めない、というのが現実です・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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