(続き)・・アレルギー疾患に関しては、「漢方医学」でも様々な処方箋が編み出されてきました。漢方ではアレルギーを引き起こす体質や気の乱れに着目し、それを是正することを通してアレルギーの治療や予防に役立てています。漢方には西洋医学にはない考え方があり、その一つが「証」です。証とはその人のもつ体力や、病気に対する抵抗力の強さなどをもとにして「実・虚」や「陰・陽」などに分類し、それに合わせた処方や施術を行ないます。同じ病気であっても、その人の証によって対応が異なるのです。
漢方の考えでは、体内の水の分布の異常で臓器や組織に水が貯まった状態を「水毒」と表現しますが、例えばぜんそくでは特に喉や気管支などの呼吸器系に余分な水が貯まり、そこに寒さなど外部の刺激が加わると呼吸困難などの発作が起こる、と解釈されています。また花粉症の場合も鼻腔や副鼻腔などに水分が貯まり、鼻汁などの症状が出るというのです。従ってこの余分な水をいかに排出して体内の水分の分布を調節するかが重要なポイントの一つとなります。
ぜんそくに対する漢方薬の処方としては、体力があり発汗が多く激しい咳が出る、といった実証に対しては「麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)」、体力は中間で痰が絡んだ咳が出て、鼻水、くしゃみがよく出るような中間証に対しては「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」、体力がなく、しつこい空咳が出て体が冷えているような虚証に対しては「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」などの処方がなされます。ただこのような証は、病気のステージやライフスタイルの変化に伴ってシフトすることがあるので注意が必要です。
一方で漢方には、人体の五臓六腑を循環するエネルギーの調和によって健康が保たれるという考えがありますが、このエネルギーが流れる道筋を「経絡」といい、ツボがそれに沿うように並んでいます。ツボを刺激するとその刺激は経絡を伝わって、五臓六腑を含む全身のエネルギーの状態を改善させる方向に働くとされています。人体には360以上ものツボがありますが、そのツボを鍼(はり)や灸(きゅう)、マッサージなどで刺激する手法が昔から開発され、現代でも研究、応用されています。
例えばぜんそくに効果のあるツボだけでも20か所以上もあると言われていますが、代表的なツボの一つとして「中府(ちゅうふ)」があります。鎖骨の下で、第2肋骨の外側と肩関節の間のくぼんだ所にあり、激しい咳がおさまり呼吸が楽になるツボです。また「肺兪(はいゆ)」は肩甲骨の内側で第3胸椎を挟んだ両側にあり、背中の緊張が取れて呼吸が楽になるツボです。一方「孔最(こうさい)」は前腕の手掌側・親指側で、肘関節より3分の1の位置にあり、激しい咳をおさめるツボです。
ぜんそくや花粉症のようなアレルギー疾患に対する治療としては、発作を軽減するためステロイドホルモンを始めとする強い薬が用いられていますが、このような西洋医学的な薬は、症状を緩和するのには有効なものの、病気を根本から改善させることは困難です。それに比べて漢方医学は即効性こそないものの、その人の体調に合わせて改善させるという特徴があるため、大いに活用したいものです。ただ漢方には上記のような独特の「診たて」が必要なため、専門家のアドバイスを求めることが望まれます。
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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