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米国特許判例紹介:KSR 最高裁判決後の自明性判断基準(第16回)
~2010KSR ガイドライン~
河野特許事務所 2011年2月1日 執筆者:弁理士 河野 英仁
(iv)CAFCの判断
争点1:公知の処理の繰り返しは常識に過ぎない
CAFCは、先行技術に開示されたステップA~Cを繰り返して、クレーム1を完成させることは常識に過ぎず、自明であると判断した。
KSR最高裁判決以前は、厳格なTSMテストが採用されており、自明と判断するためには、先行技術中にクレームに想到するための具体的な教示・示唆・動機付けが必要とされていた。KSR事件において最高裁は、先行技術中の記載に拘泥する厳格なTSMテストを廃し、非自明判断の要素として「常識common sense」をも適用可能なフレキシブルアプローチへと大きく方向転換した。
最高裁が例示した非自明判断の要素は以下のとおりである。
市場要求(market forces)、
設計上の動機(design incentive)、
複数特許の相互に関係する教示、
発明時において傾注分野において知られているいかなる必要性または問題、特許により言及されている必要性または問題、及び
当業者の背景知識、創造性、常識
CAFCは「後知恵によるこじつけ、及び、事後的理由付け」には注意する必要があるものの、「常識」は先行技術を組み合わせ、または、改変して特許発明に想到するための要素となると判示した上で、以下のとおり判断した。クレーム1においてステップA~Cは受信者のグループを目標とすること、電子メールをこれら受信者へ送信すること、及び、成功裏に配達された電子メール数を計数することを含む。原告は先行技術がこれら3つのステップを開示していることを認めている。残りのステップDは、
「(D)前記計算された数が、前記計算された数が前記所定最小数を超えるまで、前記(A)~(C)のステップを繰り返す。」にすぎない。
この最後のステップは、単に成功となるまで、公知の処理の繰り返しを記述しているに過ぎない。例えば、100通の電子メールの配信が命じられた場合、第1回送信時は95通だけ配信できたとする。「常識」からすれば、マーケティング担当者はもう一度トライするであろう。なお、原告及び被告は、本事件における当業者は「高校教育を受けた者、マーケティング担当者またはコンピュータ経験者」程度という点に同意している。被告はさらに鑑定人による主張を成したが、CAFCは鑑定人の意見に依らずとも常識であると結論づけた。
さらに、CAFCは繰り返し処理であるステップDは「自明の試み」にすぎないと判示した。本発明の問題点は、マーケティングノルマである配信数量を満たすために大量の電子メールを送信することである。かかる問題を解決するための潜在的解決方法としては以下の3つが考えられる。
(1)送信を継続すること、すなわちノルマを満たすまで数多くのアドレスへ電子メールを送信し続けること、
(2)不達メッセージを受信した場合、成功を期待して同一アドレスへ再送信すること、
(3)新たなアドレスの新規グループを特定し、新たな特定先に電子メールを送信すること(ステップDに対応)。
成功確立が高いのは明らかに(3)であり、クレーム1は「有限の特定された潜在的解決方法」の内の一つを試みたに過ぎない。最高裁はKSR事件において、
「有限の解決方法を試すことが、予期される成功を導くのであれば、それは革新(innovation)の成果ではなく、通常の技量及び常識の成果に過ぎない」と述べている。
原告は、全てのパラメータを変える必要があった、または、多くの可能性ある選択肢のそれぞれを試す必要があった等の理由も立証できなかった。以上のことから、CAFCはステップA~CにステップDを適用することは常識であり、クレーム1は自明であると判断した。
争点2:長期間未解決であった必要性は存在しない
二次的考察の一つである長期間未解決であった必要性が立証できれば、非自明と判断される可能性があるところ、本事件では原告は当該必要性を立証できなかったことからCAFCは、クレーム1は自明であると結論づけた。
「長期間未解決であった必要性」を立証するためには、「発明がいつの時点から切実に感じられていたか」、「本特許によって、どのようにしてニーズを満たしたか」を具体的に裁判所に証拠として提出する必要がある。原告は単に「効率が良くなった」と主張するのみで、具体的な日時、並びに、マーケティングコスト及び時間の低減等の証拠を提示しなかった。
(v)まとめ
本事件の如く、公知の選択肢が列挙され、特段新たな効果を奏しない場合、「試すことが自明」の論拠により自明と判断される。
(第17回へ続く)
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