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米国特許判例紹介:KSR 最高裁判決後の自明性判断基準(第14回)
~2010KSR ガイドライン~
河野特許事務所 2011年1月25日 執筆者:弁理士 河野 英仁
5.第3基準 「試すことが自明(Obvious to Try)」基準
(1)判断基準
“試すことが自明”を根拠とする判例は、化学分野に多い。2007KSRガイドラインには、試すことが自明の論拠は、技術分野において認識された問題・必要性が存在し、これらに対して特定され予期できる有限の解法が存在し、かつ、当業者が成功の合理的期待をもってこれら公知の潜在的解法を追求できる場合に限り適用されると記載されている。試すことが自明か否かは、「科学・技術の特性、科学・技術の進歩状態、公知の選択肢の本質、先行技術の特別性・一般性、及び、技術分野における結果の予見性」を含めて総合的に検討される。
(2) Rolls-Royce事件[1]
(i)判決骨子:試すことが自明の論拠は、課題を解決するための可能性ある選択肢が公知であり、かつ、有限である場合に適切である。しかしながら、可能性ある選択肢が、公知、あるいは、有限のいずれか一方を満たさない場合、試すことが自明の論拠は、非自明を結論づけるサポートとならない。
(ii)背景
Rolls-Royce(以下、原告という)は、6,071,077(以下、077特許という)を所有している。077特許はジェットエンジンのファンブレードに関する。参考図24は077特許の図1である。
参考図24 077特許の図1
ファンブレードは内側領域、中間領域、及び外側領域の3つの領域を有する。ハブ4の回転軸6に最も近いエリアは内側領域であり、エンジンの中心から最も遠く、エンジンを囲むケースに最も近いエリアが外側領域となる。中間領域は内側領域と外側領域との間にある。本発明は、衝撃波の影響を低減すべく、外部領域におけるスイープ角度に特徴を持たせたものである。
(iii)争点
先行技術は、本発明の外部領域におけるスイープ角度と逆のスイープ角度をなすブレードを開示している。被告は、ファンブレード設計の際に逆の角度を試みることは当業者にとって自明であると主張した。先行技術から、あらゆる角度を試すことによって本発明が自明といえるか否かが争点となった。
(iv)CAFCの判断
CAFCは、被告の主張を退け、自明でないと判断した。
CAFCは、「試すことが自明」の論拠において、課題を解決するための可能性ある選択肢は「公知かつ有限」でなければならないと指摘した。先行技術には、衝撃波の影響を防止するという課題を解決するために、外部領域のスイープ角度を変更すべしとする示唆は存在しなかった。このようにCAFCは、「スイープ角度を変更すること」そのものは、「試すことが自明」のための、選択肢として全く提示されていないことから、非自明と結論づけた。
(v)まとめ
被告がなした「試すことが自明」の主張は、当業者であれば適宜スイープ角度を設計変更できる、すなわち設計事項の変更にすぎないから自明とするものである。この論拠はあらゆる発明を自明とする恐れがあるが、CAFCは本事件の如く一定の歯止めをかけている。つまり、課題を解決するための選択肢が公知かつ有限でなければ、「試すことが自明」論拠により、自明とされることはない。この点、2010 KSRガイドラインにおいても審査官に注意を促している。
[1] Rolls-Royce, PLC v. United Technologies Corp., 603 F.3d 1325 (Fed. Cir. 2010)
(第15回へ続く)
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