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米国特許判例紹介:KSR 最高裁判決後の自明性判断基準(第2回)

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米国特許判例紹介:KSR 最高裁判決後の自明性判断基準(第2回)

~2010KSR ガイドライン~

 河野特許事務所 2010年12月14日 執筆者:弁理士  河野 英仁

3.第1基準 「先行技術要素の組み合わせ」基準

(1)判断基準

 構成部品が公知であり、ステップの組み合わせが技術的に可能であり、かつ結果が予期できる場合でも、組み合わせについて当業者の誰もが企てていない追加の取り組み(Additional Effort)を有する場合、クレームされた発明は非自明である。

(2)Crocs事件[1]

(i)判決骨子:先行技術がクレームされた組み合わせをTeach Away(以下、阻害という)しており、かつ、当該組み合わせにより予期できない効果を奏する場合、クレームされた先行技術要素の組み合わせは非自明である。

(ii)背景

 原告はサンダルに関するPatent No. 6,993,858(以下、858特許という)を有している。参考図1は858特許の図1である。

 

 参考図1 858特許の図1        参考図2 249特許の図1

 ワンピース成型の型(form)基部110は、靴の頭部150(靴の甲)及び靴底162を有する。成型ストラップ120は、当該ストラップ120がアキレス腱をサポートするよう甲の脚開口に取り付けられる。ストラップ120は、基部110に接し、かつ、基部110に対し回転できるよう連結具を通じて取り付けられる。基部110及びストラップ120は成型されるため、ストラップ120を回転させたてもその位置を保持することができる。すなわちストラップ120は、固定され重力の影響によっては落ちないということである。

 ITC(International Trade Commission)[2]は、クレームは2つの引用文献により自明であると判断した。第1先行技術はAqua Clogであり、これは858特許サンダルの基部110と同様の基部を開示している。第2先行技術はU.S. Patent No. 6,237,249 (以下、249特許という)であり、ゴム等の弾性部材を用いた踵ストラップを開示している。参考図2は249特許の図1である。ITCは、第1先行技術はストラップが存在しない点で、ストラップが存在する本発明とは相違するが、ストラップは249特許に開示されていることから、これらを組み合わせることで本発明は自明であると判断した。

(iii)争点

 第1先行技術と249特許のストラップとの組み合わせにより、自明といえるか否かが争点となった。

(iv)CAFCの判断

 CAFCは自明と判断したITCの決定を取り消す判決をなした。第1先行技術には成型品を踵ストラップの素材として用いない方が良いと記載され、さらに成型ストラップは伸び、または、変形する恐れがあり、ユーザに不快感を与えると記載されていた。以上のことから、CAFCは、第1先行技術は、本発明に係る成型ストラップの使用を阻害していると判断した。

 さらに、CAFCは、249特許のストラップはユーザの脚に常時接触し不快感を与える点で、通常はアキレス腱に接触せず、必要な時にだけ接触する特徴を有する本発明の成型ストラップとは相違すると述べた。CAFCは、本発明は、第1先行技術と249特許との組み合わせを超えた予期できない効果を奏することから、非自明であると結論づけた。

(v)まとめ

 本事件は、審査官が、単に先行技術中に全てのクレーム構成要件が開示されていることを指摘することをもって自明であると結論づけてはならないことを明確にするものである。MPEP § 2143 A(3)には、効果が予期できないものである場合、先行技術中の組み合わせを根拠として米国特許法第103条に基づく拒絶を通知してはならない点、記載されている。


[1] Crocs, Inc. v. U.S. International Trade Commission, 598 F.3d 1294 (Fed. Cir. 2010)

[2] 特許権者は連邦地裁以外に、侵害品の輸入差し止めを求めてITCに対し侵害者を提訴することができる(関税法第337条)。なお、損害賠償の請求は認められない。

                                           (第3回へ続く)

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