せいさつ(100)思想に命をかけた女性 シモーヌ・ヴェイユ - 人材育成全般 - 専門家プロファイル

中沢 努
パンセ・ソバージュ・アンド・カンパニー 代表
東京都
コンサルタント・研修講師・講演講師

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せいさつ(100)思想に命をかけた女性 シモーヌ・ヴェイユ

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せいさつ 100~091


金や名誉など、俗なものに魂を売る人間は多い。
しかし、その逆のものに自分を預け、それを貫くために命をかけ、実際に死ぬ人間は少ない。

今日は、「悲惨」や「苦しみ」を理解するために自ら進んで心身を傷つけ、死んでいった哲学者の話しをしよう。

その哲学者の名前はシモーヌ・ヴェイユ(シモーヌ・ヴェーユ)
1909年パリに生まれ、最後は入院先の病院で医師の説得を受け入れず食物を拒否し、飢餓同然で34という若さで死んだ女性である。

彼女はインテリであったが、体が病弱だった。言葉で言い表せぬほどの激しい痛みが伴う持病を常に抱えながら生きねばならなかった。

ヴェーユは、貧しさを心の底から味わうために哲学教授という身分を明かさずに労働者として工場で働いた。
さらに、第二次世界大戦の時代にはレジスタンス要員として祖国フランスへ行くことができなかった代わりにフランス国内で配給として支給されている量の食べ物しか口にせず、祖国の人間と同じ窮乏を自らに課した。
そして、最後は入院先の病院で医師の説得を受け入れず食物を拒否し、飢餓同然で34歳という若さで死んだ。

ギュスターブ・ティボンはこう言っている 
「彼女は、単に〈知ること〉と〈全精神をつくして知ること〉とのあいだには絶望的なへだたりがあることを知りつくしていたし、みずからそのへだたりを体験していた。彼女の人生の目的は、ただこのへだたりをなくすということにつきた。」

功利的にはこれほど馬鹿げた人生はないかもしれない。

私は、シモーヌ・ヴェーユの自己犠牲を美化するつもりはない。
しかし、ヴェーユの「自分の信念や思想を愚直に全うしたその生きざま」には心の底から共感する。

ギュスターブ・ティボンは続いてこう言った。
「シモーヌ・ヴェーユの文章は、注釈などをつけたりすれば、かえって品位をおとし、歪曲するだけになりかねないような、すぐれて偉大な作品の部類に入るものである。」

私は、ティボンのこの言葉に同意する。
だから、これからヴェーユの言葉をただ列挙してみる。

(シモーヌ・ヴェーユの言葉 その1)
貧困には、他にいかなる等価物もみあたらないような詩がある。それは、悲惨さという真理の中にみられる悲惨な肉体から発する詩である。

(シモーヌ・ヴェーユの言葉 その2)
苦しみがなくなるようにとか、苦しみが少なくなるようにとか求めないこと。そうではなく、苦しみによって損なわれないようにと求めること。

(シモーヌ・ヴェーユの言葉 その3)
本当のものを表現するには、つらい努力が必要である。本当のものをそれと認めるのも、同じである。にせものならば、あるいはせいぜいのところ表面的なものならば、表現するにも、それを認めるにも、努力はいらない。

(シモーヌ・ヴェーユの言葉 その4)
肉体の苦しみ(それに、物質的な窮乏)は、勇気ある人たちにとって、忍耐力と精神力をためす機会になることが多い。だが、それらをもっとよく役立たせる道がある。だから、わたしにとっては苦しみが単に自分をためす機会に終わらないように。人間の悲惨を身にしみて感じさせるあかしとなるように。

(シモーヌ・ヴェーユの言葉 その5)
人間の悲惨をじっとながめていると、神の方へと連れ去られる。他人を自分自身のように愛しているときにはじめて、人はこの悲惨をながめうるのである。自分を自分としてでは、また、他人を他人としてでは、この悲惨をながめえない。

(シモーヌ・ヴェーユの言葉 その6)
梃子。上げたいと思うときは、下げること。それと同じことで、「自分を低くするものは、高くされるであろう。」

(シモーヌ・ヴェーユの言葉 その7)
神よ、どうかわたしを無とならせてください。わたしが無となるにつれて、神はわたしを通して自分自身を愛する。

ヴェーユの言葉を前にして、私は、ただただ沈黙する。

(中沢努「思考のための習作」から抜粋)

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