ある男が異動した。
異動先の支店で、男は未経験の業務を担当することになった。
1か月と半月が経った。
男は支店長に呼ばれこう言われた。
「もうじき2カ月になるというのにどういうことだ。普通なら1か月もあれば任せられるレベルの仕事だぞ。さっさとマスターしろ」
男が命じられた業務は顧客からの問い合わせに適切に対応し、再受注件数を増やすというものだった。
この業務は各製品の構造や特徴を理解してからでないとできなかったが、彼はそれらをなかなか理解できずにいた。
男は短い時間で多くのことを覚えることが苦手だった。
受験の時も年号や英単語を覚えるのに十分な時間が必要なタイプだった。
男は慣れない技術用語を必死に覚えながら業務にあたった。
しかし製品の種類があまり多く、その領域の門外漢だった彼にとってはそう簡単に理解できる分野ではなかった。
2週間後。
男はまた支店長に呼ばれ、どやされた。
「お前、やる気あるのか?」
男はガッカリした。
出来ていないことを指摘されるのは仕方ないが、苦手なことから逃げずにやろうとしている部分を見ようとしない支店長の無神経さに落胆した。
その日の夕方、支店長は早めに会社を後にした。
本社からの命令で中国語の学校に通っていたのだ。
国内市場に見切りをつけ、中国を中心としたアジア諸国に注力するという施策の一環だった。
授業が終わった。
支店長は教室に残るよう講師から告げられた。
彼は何かよいアドバイスでももらえるのかと期待したが、それとは反対の厳しい言葉にわが耳を疑った。
「やったことをなぜ暗記してこないのですか?これだけ時間をかけているのですから、文法の基礎くらいはマスターしていないと困るのです。やる気はあるのですか?」
講師の思いがけない言葉に、支店長は立腹した。
「あれがものを教える人間の言うことか?人には得手/不得手があるじゃあないか。こっちだって頑張っているのに・・・」
自宅へ帰った支店長は食卓で妻が出してくれたビールを飲みながらつぶやいた。
「あんな講師がいる学校はダメだ。違う語学学校を探そう」
支店長は学校を変える決意をした。
自分の部下が上司である自分に失望し、転職を考え始めたことも知らずに。
(中沢努「思考のための習作」から抜粋)
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