情報開示義務は発明者でない上司にまで及ぶ(第2回) - 特許 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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情報開示義務は発明者でない上司にまで及ぶ(第2回)

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情報開示義務は発明者でない上司にまで及ぶ

~代表者の開示義務違反により権利行使不能とされた案件~ (第2回)

Avid Identification Systems, Inc.,
Plaintiff Appellant,
v.
The Crystal Import Corp.,
et al., Defendants.

河野特許事務所 2010年7月25日 執筆者:弁理士  河野 英仁

(2)特許取得のプロセス
 1990年4月頃、代表者は見本市にて関連製品のデモを行った。1991年8月原告は326特許に係る出願を行った。本出願に係る読み取り機は、原告の暗号化チップと、非暗号化チップの双方を読み取ることができる。

 発明者はPolish博士,Malm博士及びBeigei氏の3名であり、Malm博士はまた特許弁護士として本事件を担当した。なお、代表者は発明者ではない。本願は欧州特許庁へも出願されている。326特許は1993年8月に成立した。

(3)訴訟の開始
 原告は、競合会社であるDatamars(以下、被告という)が326特許を侵害するとしてテキサス州連邦地方裁判所へ提訴した。地裁は特許の有効性を認め、また特許権侵害を認めたが、不正行為があったとして特許権行使を認めなかった*2

 代表者の見本市での製品デモは米国特許法第102条(b)*3における重要な先行技術であり、そのような情報がUSPTOに対し欺く意図を持って伏せられていた。地裁は、代表者もPTOに対する誠実義務を有しており、当該行為を情報として開示しなかったことは不正行為に該当すると判断した。原告はこれを不服としてCAFCへ控訴した。


3.CAFCでの争点
争点1:見本市における関連製品のデモが「重要な先行技術(material prior art)」に該当するか否か
 代表者は出願日から1年以上前に見本市において、326特許の関連製品についてデモを行った。しかしながら、この関連製品は326特許のクレームの構成要件を全て開示するものではなく、訴訟においても陪審員は関連製品によっては、新規性が否定されることは無いと認定した。このように、米国特許法第102条(b)の拒絶の対象とならない行為についても、「重要な先行技術」として、PTOに対して開示する義務があるのか否かが問題となった。

争点2:発明者でない代表者も出願・審査手続きの遂行に「実質的に関与」する者といえるか否か
 PTOに対し誠実義務を負う者が誰かを特定するために、規則1.56(c)*4が規定されている。

(c) 本条の意味においては,特許出願の提出又は手続の遂行に関与する個人とは,次に掲げる者のことである。
(1) 出願に名称が記載されている全ての発明者
(2) 出願の作成又は手続を遂行する全ての弁護士又は代理人,及び
(3) 上記以外の,出願の作成又は手続の遂行に実質的に関与(substantively involved)している,及び発明者,譲受人,若しくは出願譲渡義務の対象である者に関係している他の全ての者


 規則1.56(c)に規定する「実質的に関与」については、具体的にどのような行為を行った場合に、「実質的に関与」に該当するか判例上明確化されていなかった。代表者の見本市におけるデモが出願・審査手続きの遂行に実質的に関与したといえるか否かが問題となった。


                                  (第3回へ続く)

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