
- 河野 英仁
- 河野特許事務所 弁理士
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対象:特許・商標・著作権
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中国特許権侵害訴訟の傾向と分析
〜中国企業に狙われる外国企業〜(第9回)
河野特許事務所 2010年6月28日 河野 英仁
(4)被告の無効の主張
人民法院における審理においては,日本国特許法第104 条の3 の如く,特許無効の抗弁は認められない。そのため,被告は復審委員会に対し無効宣告の請求を行った。
2004 年12 月13 日被告は,特許復審委員会に対し,389 特許の無効宣告を請求した(専利法第45 条)。被告は複数の文献を挙げ389 特許の請求項1 乃至5 に係る発明は創造性(日本でいう進歩性)を有さないと主張した(専利法第22 条第3 項)。復審委員会は,被告が挙げた文献には請求項1 に記載された空気と海水との比率,及び,曝気時間が開示されていないと認定し,389 特許の請求項1 乃至5 は創造性を有すると判断した(12)。被告はこれを不服として2006 年6 月29 日北京中級人民法院へ上訴(専利法第41 条第2 項)したが,北京中級人民法院も復審委員会の判断を支持し,特許維持の判決をなした(13)。さらに被告は2006 年12 月20 日北京高級人民法院へ上訴したが,北京高級人民法院も特許維持の判決をなした(14)。
(5)被告の反論 公知技術の抗弁
人民法院において自身の使用するイ号方法が公知技術と同一であることを主張することにより,特許権侵
害を回避することができる。これは公知技術(自由技術)の抗弁と呼ばれ,訴訟においては頻繁に被告側か
ら抗弁として主張される。
本事件においても被告は,イ号脱硫方法は公知技術に過ぎないと主張した。被告は環境保護技術に関する論文集,U.S. Patent No. 4, 085, 194,検討会シリーズ集及び教科書の4 つの文献を証拠として提出した。しかしながら,人民法院は,これら4 つの文献は一般的な海水脱硫方法・装置,及び,技術原理を紹介しているに過ぎないと判断した。特に,請求項1 に記載された空気と海水との混合比率,及び,曝気時間については何ら文献中には開示されていないと判断した。また,混合区6’(図9 参照)の下部に設けられるSO2 吸収後の酸性海水が導入される進入口7 も全く開示されていないと判断した。以上のことから人民法院は被告の公知技術の抗弁を否定した。
(6)損害額の認定
原告は自身の損害額として7600 万元(約11 億4千万円)と主張したが,当該額を算出するための根拠
が不十分であるとして人民法院はこれを採用しなかった。人民法院は代わりに,専利法第65 条の規定に基
づき,富士化水の利益を損害賠償額とした。
富士化水は華陽電業に対し脱硫システムを1 基当たり2530.62 万元, 計2 基を販売した。合計金額は
5061.24 万元である。人民法院は技術移転費用に係る当該利益から,脱硫システムの導入の際に要した部品費用を控除すると述べた。しかしながら,富士化水は部品費用に関する証拠の提出を拒んだため,結局被告側の利益は5061.24 万元(約7 億6 千万円)と認定された。
以上のとおり,人民法院はイ号脱硫方法及びイ号脱硫装置が389 特許の技術的範囲に属すると認め,富士化水に対し389 特許の侵害行為の即時停止を命じた。
また,富士化水に対し5061.24 万元の損害賠償金の支払いを命じた。なお,原告武漢晶源は,第1 被告である日本富士化水と,第2 被告である華陽電業との双方が共同で5061.24 万元(約7 億6 千万円)を支払うべきとして,最高人民法院へ上訴した。本稿投稿後の2009 年12 月21 日,最高人民法院は原告の訴えを全面的に求める判決をなした。最高人民法院は,日本富士化水と華陽電業とが共同で5061.24 万元を原告に支払うよう命じる判決をなした。
(第10回に続く)
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