中国特許権侵害訴訟の傾向と分析(第8回) - 特許 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許権侵害訴訟の傾向と分析(第8回)

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中国特許権侵害訴訟の傾向と分析

〜中国企業に狙われる外国企業〜(第8回) 
河野特許事務所 2010年6月25日 河野 英仁


 389 特許の請求項1 は以下のとおりである。
1. 曝気法海水煙気脱硫方法であり以下のステップを含む:
1)海水を取り込む;
2) 海水を用い,洗浄塔内にて,煙及び水蒸気中のSO2 を洗浄する;
3) SO2 を吸収した酸性海水をSO2 未吸収の海水に混ぜる;
4) 混合された海水に対し空気を送り込み,曝気を行い,混合海水中に送りこまれる空気数量は,空気において1 時間当たりの標準立方メートル,海水において1 時間当たりの立方メートルにて計量でき,その空気の混合後の海水に対する比率は,空気が0.1 ~ 1.5,海水が1,曝気時間は2 分間~ 20 分間とし;
5)曝気処理後の海水を海域へ排出する。
なお,389 特許の請求項2 乃至4 は請求項1 の従属請求項である。請求項5 は請求項1(曝気方法)の従
属請求項であり,発明のカテゴリーが相違する曝気装置について権利化している。原告は1995 年12 月22
日に中国知識産権局に発明特許出願を行い,1999 年9月25 日特許を成立させた。
(2)訴訟提起までの経緯
 1996 年6 月7 日600 メガワットの火力発電所を2基製造し稼働させるべく,華陽電業有限公司(以下,華陽電業という)が設立された。華陽電業は環境に配慮して脱硫装置を導入することを決定した。脱硫装置は,日本富士化水工業株式会社(以下,富士化水という)の技術導入を受け完成した。華陽電業は富士化水と技術導入に関する契約を結んだ。華陽電業が提供した価格明細書によれば,1 台当たりの脱硫装置の価格は約4330 万元であり,そのうち富士化水に対し支払った技術導入費は1 台当たり2530.62 万元である。
 華陽電業は1998 年8 月頃から火力発電所を稼働し,また脱硫装置の使用を開始した。
 これに対し原告は,2001 年4 月28 日,華陽電業に対し389 特許の特許権侵害に関する警告書を送付した。華陽電業は富士化水から装置を購入したに過ぎないから,富士化水が第1 に責任を負うべきであると回答した。また華陽電業は,「侵害時における最終的な責任は富士化水が負うものとする」との契約を富士化水との間で締結したことを理由に,富士化水に対し積極的に連絡を取るよう回答した。
(3)訴訟の提起
 原告は,2001 年9 月389 特許の請求項1 乃至5 の特許権侵害であるとして,富士化水及び華陽電業(以下,場合により被告という)を相手取り,福建省高級人民法院へ提訴した。原告は富士化水及び華陽電業の侵害行為の差し止め及び損害賠償を求めた(専利法第11 条,専利法第60 条)。
 ここで,原告は富士化水が華陽電業に提供した脱硫装置及び脱硫方法が389 特許の侵害であることを立証すべく司法鑑定を裁判所に請求した。人民法院は司法鑑定の請求に基づき,2003 年11 月14 日中国科学技術法学会華科知識産権鑑定センター(以下,華科鑑定センターという)に司法鑑定を委託した。華科鑑定センターは華陽電業に導入された脱硫装置における脱硫方法を,以下のとおり認定した。

1)’海水を取り込む;
2)’ 海水を用い,洗浄塔内にて,煙及び水蒸気中のSO2 を洗浄する;
3)’ SO2 を吸収した酸性海水をSO2 未吸収の海水に混ぜる;
4)’ 混合された海水に対し空気を送り込み,曝気を行い,混合海水中に送りこまれる空気数量は,空気において1 時間当たりの標準立方メートル,海水において1 時間当たりの立方メートルにて計量でき,その空気の混合後の海水に対する比率は,空気が0.29,海水が1,曝気時間は13 分間とし;
5)’曝気処理後の海水を海域へ排出する。
 すなわち,389 特許の請求項1 の空気と海水との比が(0.1-1.5):1,曝気時間は2 ~ 20 分間であるところ,華陽電業の脱硫方法は,空気と海水との比が0.29:1,曝気時間は13 分間と相違するものの,その他の構成は同一である。華科鑑定センターは,華陽電業の脱硫方法は,空気と海水との比,及び,曝気時間が,請求項1 に記載の数値範囲内に属することから,華陽電業の脱硫方法は請求項1 の技術的範囲に属すると判断した。請求項5 に係る発明は請求項1(脱硫方法)に従属する脱硫設備を権利化している。華科鑑定センターは,華陽電業の脱硫装置も,請求項5 に係る発明と均等であると判断した(11)。
 人民法院は,司法鑑定の内容に基づき,富士化水が華陽電業に提供した脱硫装置及び脱硫方法が,389 特許の請求項1 及び5 の技術的範囲に属すると判断した。  

(第9回に続く)  

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