天皇に対する裁判権 - 民事事件 - 専門家プロファイル

今林 浩一郎
今林国際法務行政書士事務所 代表者
東京都
行政書士

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天皇に対する裁判権

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   天皇に刑事裁判権及び民事裁判権は及ぶでしょうか。通説は、民事裁判権も刑事裁判権も天皇には及ばないと解します。    

   まず、刑事裁判権に関しては、皇室典範第21条が「摂政は、その在任中、訴追されない。ただし、これがため、訴追の権利は害されない。」と規定していることから、勿論解釈として摂政に刑事裁判権が及ばないのであれば当然天皇には刑事裁判権が及ばないと解釈します。これは天皇の象徴としての特殊な地位から帰結される得る当然の結論とも言えます(憲法第1条)。ところで、摂政に関しては、「在任中」という制限が付いていますが、天皇に関してはどうでしょうか。この点、天皇は辞任も生前皇位継承もなく天皇崩御のみが皇位継承の原因であることから、「在任中」という制限は無意味であると思われます。同時に、刑事訴追を前提とする天皇に対する逮捕・勾留も論理的に当然認められないと解されます。   

   では、天皇の刑事責任に関してはどうでしょうか。天皇に刑事裁判権が及ばない以上、天皇の刑事責任もないように思われますが、定義上両者を区別して考える必要があります。これは摂政や大臣(憲法75条)場合と同様に解することが論理的です。したがって、たとえ天皇に刑事裁判権が及ばなくても刑事責任はあると解されます。この解釈は「この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。」と規定する刑法第1条とも一致します。とはいえ、結局、刑事裁判権が天皇に及ばない以上、天皇訪問の際に天皇の過失で誰かが怪我を負っても、被害者は過失傷害罪で告訴できないことになります(告訴不受理になると解される)。   

   次に、民事裁判権に関してはどうでしょうか。この点、最高裁平成元年11月20日第2小法廷判決は「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることにかんがみ、天皇には民事裁判権が及ばないものと解するのが相当である。したがって、訴状において天皇を被告とする訴えについては、その訴状を却下すべきものである」と判示しています。通説も天皇の象徴としての地位から民事裁判権は及ばないと解します。    

   では、天皇の民事責任に関してはどうでしょうか。通説は、天皇の民事責任を認めます。例えば、天皇に民事責任がないとすると、天皇には一切 の支払義務は生じず、 天皇が宝飾 品や高級食器を購入し ても、店又は企業側は一切天 皇に代金支払請求できない ことになります。すると、誰も天皇とは売買契約 も締結しなくなるでしょう。勿論、天皇の生活費は国庫から拠出されます。また、天皇の行為 に関しては、国事行為 や公的行為に限らず内 閣が責任を負担すると 解されるので、結局は 国庫から代金が支払われること になると思われます。

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