性犯罪と裁判員裁判制度 - 書類作成・申請 - 専門家プロファイル

今林 浩一郎
今林国際法務行政書士事務所 代表者
東京都
行政書士

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:法律手続き・書類作成

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

性犯罪と裁判員裁判制度

- good

  1. 暮らしと法律
  2. 法律手続き・書類作成
  3. 書類作成・申請

   「南日本で今年、女性が性的暴行を受け、けがをした事件で、検察側が被害者の意向に沿い、裁判員裁判の対象となる強姦致傷罪でなく、裁判官だけで審理される強姦罪で容疑者を起訴していたことが、被害者側関係者の話で分かった。昨年8月には別の強姦致傷事件で、被害者側が裁判員裁判で審理されるのを避けるため示談に応じ、容疑者が起訴猶予処分になっていたことも判明。専門家からは性犯罪を裁判員制度の対象から外すべきだとの指摘も出ている」(5月25日付毎日新聞)。      

   まず、この事件で問題になるのは、強姦致傷罪(刑法181条2項)を強姦罪(刑法177条)で起訴できるかどうかです。強姦致傷罪は強姦罪の結果的加重犯であり、強姦罪は強姦致傷罪の構成要件の基本犯的部分です。ですから、強姦致傷罪を強姦罪で起訴するということは、検察官の裁量で強姦致傷罪の構成要件の一部を分離して起訴することに他なりません。しかしながら、検察官は公益の代表者として訴追裁量権を有しており(刑事訴訟法247条)、立証の可否、情状及び被害者感情を考慮してある犯罪構成要件の一部を分離して起訴することも可能であると考えます(同法248条)。

   ところで、強姦罪は親告罪であるので(刑法180条)、被害者女性の告訴が訴訟条件になっており、検察官が告訴のない強姦罪を起訴しても公訴棄却されます(刑事訴訟法338条4号)。ですから、通常、被害者女性が告訴を躊躇する場合に、検察官がたとえ軽微な傷害をも認定して強姦罪を可能な限り強姦致傷罪で起訴することには意味があります。すなわち、強姦致傷罪は非親告罪ですから、起訴のために被害者女性の告訴を要しないからです。

   ここで強姦致傷罪が非親告罪とされているのは、被害者女性のプライバシーに対する配慮よりも犯罪の重大性や社会的影響を重視したからです。ところが、本件では、検察官は、その逆に被害者女性のプライバシーに配慮して裁判員裁判を避けるために強姦致傷罪を強姦罪として起訴しています。これは被害者女性のプライバシーに配慮して強姦罪を親告罪としている制度趣旨と同じ趣旨から、強姦致傷罪の構成要件の基本犯的部分である強姦罪を利用していることになり、一見矛盾しているようにも思われます。しかしながら、結局、自分のプライバシーをどの程度開示するかは被害者女性自身の判断で決めることです。したがって、被害者女性自身が敢えて告訴し、裁判員裁判での審理よりも法廷での裁判官による裁判の方がプライバシー侵害の程度が低いと判断して選んだのであれば問題はないということになります(憲法第13条)。

   最後に「性犯罪を裁判員制度の対象から外すべきだ」との専門家の主張ですが、元々性犯罪の多くが親告罪として規定されている制度趣旨は被害者女性のプライバシーに配慮してのことですから、今更敢えて外す特段の必要性があるのか疑問です。それに、他の非性犯罪と併合罪、観念的競合又は牽連犯等の関係になっている場合、結局、裁判員裁判の対象となるからそれほど違いはないのではないか、また、仮にそれらも全部裁判員裁判の対象外とすれば裁判員裁判の対象が相当に縮減されてしまうのではないかと思います。

このコラムに類似したコラム

家事事件の手続が変わりました 〜家事事件手続法〜 白木 麗弥 - 弁護士(2013/01/11 19:59)

刑事裁判の有罪率99.9%は異常か? 今林 浩一郎 - 行政書士(2010/06/20 23:12)

執行猶予率と起訴猶予率 今林 浩一郎 - 行政書士(2010/06/10 01:50)