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〜実用新型特許権の有効活用〜(第5回)
河野特許事務所 2009年2月10日 執筆者:弁理士 河野 英仁
泉株式会社(日本)
原告-被上訴人
v.
広州美視有限公司等
被告-上訴人
4.人民法院の判断
争点1:人民法院は、特許は有効であるとして審理を進行する。
人民法院は、復審委員会(日本の審判部に相当する)による無効決定(専利法第46条第1項)*9がなされない限り、権利は有効なものとして審理を進め、請求項12についての特許侵害を認めた。
原告は権利の有効性を確認すべく知識産権局に対し、事前に検索報告(日本の実用新案技術評価書に相当)の請求を行った。知識産権局は、検索の結果U.S. Patent No. 6,249,377により、請求項1,3,7,11については新規性なし、請求項2,4,8,17,18,21については創造性(日本の進歩性に対応)なしとの報告書を作成した。これにより原告は有効である請求項5及び12を用いて権利行使した。
なお、検索報告は第3次専利法改正により特許権評価報告という名称に変更された。特許権評価報告に関する規定は専利法第61条第2項である。専利法第61条第2項の規定は以下のとおり。
専利法第61条第2項
特許権侵害の紛争が実用新型特許又は外観設計特許に関わる場合、人民法院又は特許管理工作部門は、特許権者又は利害関係者に、国務院特許行政部門により係争実用新型又は外観設計に対する調査、分析及び評価の上で作成された特許権評価報告を提出するよう要求し、それを特許権侵害の紛争を審理、処理するための証拠とすることができる。
日本における実用新案技術評価書制度とは異なり、「人民法院は証拠とすることができる」と規定するのみであり、特許権評価報告の提出は任意である。ただし特許権評価報告を提出しない場合、被告の無効宣告請求を理由に訴訟が中止される可能性が高くなることから、実務上は権利の有効性を示す証拠として提出することが多い。
なお、第61条に「審理、処理するための証拠とすることができる」と規定されているように、特許権評価報告はあくまで一証拠にすぎず、特許権評価報告自体には何ら法的拘束力はない。
第1審において被告Aは請求項5及び12は創造性がなく特許は無効であると主張したが、中級人民法院は復審員会による無効決定がなされていないことから、請求項5及び12は有効なものであるとして審理を行った。中国においては日本とは異なり、人民法院内での特許無効の主張は一切認められない。
被告Aは第1審判決後、無効宣告請求(日本の無効審判請求に相当)を行った。復審委員会は、請求項1-6は無効、請求項7-12は有効との決定をなした。原告は当該決定を受けて、復審委員会による審理中に請求項1-6を削除する補正を行った。なお、中国においては日本国特許法第126条に対応する訂正審判制度がなく、無効宣告請求審理中に、請求項の削除・併合・技術手段の削除を目的とする補正のみが可能である(審査指南第4部分第3章4.6)。
被告Aは第2審において、請求項1-6に対する無効決定を証拠として提出したことから、高級人民法院は請求項1-6に対する侵害の求めを認めなかった。高級人民法院においては請求項7-12に対する特許権侵害の存否が問題となった。
(第6回へ続く)
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