中川昭一氏、死去より - 心の病気・カウンセリング - 専門家プロファイル

銀座泰明クリニック 院長
東京都
精神科医(精神保健指定医、精神科専門医)
03-5537-3496
※お電話の際は「"プロファイル"を見た」とお伝え下さい。

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:心の病気・カウンセリング

菅野 庸
菅野 庸
(院長・医師)
茅野 分
茅野 分
(精神科医(精神保健指定医、精神科専門医))
斉藤ヒカル
斉藤ヒカル
(潜在意識セラピスト)
斉藤ヒカル
(潜在意識セラピスト)
快眠コーディネイター 力田 正明
(快眠コーディネイター)

閲覧数順 2024年04月24日更新

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

「繊細すぎるほど繊細」 強い印象裏腹にストレスで不眠?

都内の自宅で4日、死亡が確認された自民党の中川昭一元財務相(56)。「北海のヒグマ」と称され首相候補に上り詰めながら、非業の死を遂げた父の一郎元農相を尊敬し、面影を追うように保守派政治家の道を歩んできた。強さのイメージとは裏腹に、繊細な心の持ち主でもあった。 (政治部・金杉貴雄、東京新聞 2009年10月5日、一部省略)

中川氏は昨年8月、地元北海道の講演で、翌9月に退陣した福田康夫首相を批判し「福田降ろし」の先鞭をつけた。しかし、押しが強い発言をした後、その晩に居酒屋で杯を傾け「おれ、ついに言っちゃったな…」と漏らした。

東大法学部、日本興業銀行を経て、自ら命を絶った父の後釜として政界入り。早くから、タカ派論客として頭角を現し、小泉内閣では経済産業相と農相を歴任。安倍晋三元首相や麻生太郎前首相らとは盟友関係にあった。

2002年と03年に、超党派の拉致救出議員連盟(拉致議連)の会長も務め、06年には北朝鮮の核実験実施を受け、核武装の議論の必要性を提起し、物議を醸した。

「理解力抜群で、非常に頭が切れる」との評価の一方、飲酒や睡眠薬、持病の腰痛薬の影響からか、公の席でもうろうとし、ろれつが回らなくなる姿がたびたび目撃された。

秘書は「繊細すぎるほど繊細。毎朝四時に起きて政策を勉強し、こちらが心配するほど休まなかった」と明かす。

昨秋には麻生氏に解散先送りを進言した。結果的にその後、自らの「もうろう会見」の失態などで内閣支持率は急落。衆院選で自民は下野した。睡眠薬がなければ眠れない夜が続いたという。

中川氏は、57歳で死去した一郎氏について「父を政治家として超えたい」との思いを長年抱き続けていた。議員会館の部屋には、一郎氏の写真が掲げられており、選挙期間中に「もし議席を失ったら、父にどう謝ればいいのか」ともつぶやいた。

父を目標とした人生は、道半ばで突然途絶えた。


大変、衝撃的で悲痛なニュースが日曜朝、速報されました。この間まで日本を代表していた政治家、中川昭一氏が急死されたのです。死因は現在のところ循環器系の異常が疑われるそうですが、精神的な問題も背景にあったことでしょう。2月に「もうろう会見」の引責として大臣を辞任し、8月の衆院選で自らの落選、自民党の野党へ転落と、立て続けに喪失体験を生じました。本人も「こういう感情は初めてで、うまく言葉にできない」と述べていましたから、呆然自失という心境だったと思います。それから1ヶ月余り、どのような変化があったことか・・・。

そもそも、「北海のヒグマ」とも形容された大政治家だった父親、一郎氏の背中を見上げて育ち、30歳時にその父親を自殺で亡くされました。父親は自民党・総裁選で大敗後、ホテルの一室で縊死しました。やはり睡眠薬を使用していたといいます。息子は父親に追いつけ追い越せと、幾多の政争を経て、大臣となりました。それが落選後は「父にどう謝ればいいのか」と漏らしていたそうです。これらは顕著な生物学的な遺伝負因および心理学的なエディプス・コンプレックス(息子が父に抱くライバル心)と言えます。

昭一氏はこのような父子関係を背景に、26年間に渡り、政界で活躍しました。上記によると、大胆かつ繊細な人柄のようで、物議を醸すほどの発言をした後、後悔している一面もあり、循環気質(躁うつ病の病前性格、気分の高揚と憂鬱を様々な割合で持つ)だったのかもしれません。そして、アルコール依存・乱用も認められ、2月の「もうろう会見」以前から、公の場において幾度も酩酊した姿を見せていました。8月の選挙において断酒宣言をしたものの、死亡時に血中からアルコールが認められたことから、依存症に陥っていたと推測されます。

アルコール依存症とはお酒を止められない病気です。頭で悪いと「分かっていても止められない」脳の病気で、量の多さもさることながら、朝や昼からも飲んでしまい、仕事や生活にトラブルを生じます。病気は数年から数十年かけて進行し、慢性期は精神の変調(情緒不安定、認知機能の低下など)はもとより、肝硬変や食道静脈瘤といった身体の病気も生じます。

アルコール依存症は本人のみでなく家庭や職場など周囲の人々を巻き込み問題を生じます。本人の酒乱や問題行動から直接に間接に傷つけられ、いわゆる「機能不全家族」となります。家族に必要な団らんは失われ、子供は父親や母親の顔色をうかがい生活します。妻や夫は相手の飲酒を抑制できず、本人の起こした問題の事後処理を行います。その献身的な姿は周囲の同情をひきますが、本人の断酒を先送りして、結局「イネイブラー」として依存症を助長してしまうのです。この場合、配偶者らの行動は「共依存」とも言い、本人の面倒をみることでようやく自分の存在価値を見出している病的行動とも捉えられます。

それでは、アルコール依存症の方が回復へ至るにはどうすればよいのでしょう。それには「底つき体験」が必要と言われています。厳しいお話ですが、多額の借金から破産したり、仕事や家族を失ったり、入院して生死の境をさまよったりするような「どん底」を体験して、初めて止めようと心から誓えるのです。アルコール依存症の方というのは自らの飲酒や問題を「否認」して、酒を飲み続けてしまいます。家族や周囲の人々も何とか表沙汰にならないよう取り繕います。そして、問題の根本的な解決は先送りされ、取り返しのつかない事態になってようやく着手されるわけです。

しかし、これではあまりにも代償が大き過ぎると言わざるを得ません。何とか傷の小さいうちに早期発見・早期治療へ結び付けたいものです。それには各自が自分や家族の病気を自覚し、問題の構造を理解することが必要です。アルコール依存症に関しても、冷静に原因と対処の方法を検討することが望まれます。それにはこれまで繰り返し述べているセルフ・モニタリング、認知行動療法が有用です。あるがままの姿を客観的に観察し、無理のない自然な行動・生活を送られるようにすることが理想です。

最後に、中川氏のご家族を考えると問題が繰り返されないことをお祈り致します。幼少期や思春期に親から受けた心的外傷は成人後も引きずり、子供の養育に影響を及ぼします。これを「世代間伝達」と呼び、虐待を受けた子供は将来、虐待を行うようになると言われています。このような悪循環を断ち切るには、その事実を客観的に認識して、適切な対処を行えるよう学習していくことが必要です。ともすると「反復強迫」といい、幼少期の外傷体験を無意識に繰り返してしまう現象があるからです。今回の事例は幼児の虐待と異なりますが、祖父・父と続いた急死という不幸な出来事が反復されないよう、今回の事態を冷静に分析して、わだかまりなく受容していかれることを期待いたします。中川昭一氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

銀座泰明クリニック

 |  コラム一覧 | 

カテゴリ このコラムの執筆専門家

(東京都 / 精神科医(精神保健指定医、精神科専門医))
銀座泰明クリニック 院長

東京・銀座の心療内科・精神科、夜間・土曜も診療しております。

東京・銀座の心療内科・精神科です。夜間・土曜も診療しております。都会で毎日、忙しく過ごされている方々へ、心身の健康をサポートいたします。不眠、不安、うつ病などに関して、お気軽にご相談ください。

03-5537-3496
※お電話の際は「"プロファイル"を見た」とお伝え下さい。

このコラムに類似したコラム

【コラムのつなぎ目】4/17 出会いの場 国府谷 明彦 - 厚生労働省認定 産業カウンセラー(2013/04/17 18:24)

鬼滅の刃5 無限列車編 紅蓮華「僕を連れて進め!」に込められた痛切な想い 堀江 健一 - 恋愛恐怖症・心の問題カウンセラー(2021/03/08 11:00)

ストレスがある時の思考と言葉使いとは? 斉藤ヒカル - 潜在意識セラピスト(2015/03/10 23:42)

人生の午後とは 藤永 英治 - 心理カウンセラー(2015/02/15 15:20)