- 河野 英仁
- 河野特許事務所 弁理士
- 弁理士
対象:企業法務
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- (行政書士)
- 河野 英仁
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河野特許事務所 2009年9月14日 執筆者:弁理士 河野 英仁
3.具体例
以下仮想クレームを設定し、各クレームが法定主題に該当するか否かの分析を行う。
(1)事例1
クレーム1
検索結果評価方法であり以下を含む、
第1特性に基づき結果をグループへソートし、
第2特性に基づき結果をランキングし、
検索の成功を評価するためにランク付けされた結果を所定の望ましい結果リストと比較する。
結論:クレーム1は法定主題に該当しない(ステップS5)。
分析:特定機械に実装されているか否か(ステップS1)?→NOである。
BRIに基づけば、各ステップは、人またはプログラムされたコンピュータにより実行される可能性がある。そして、明示的に機械に言及しておらず、または本質的に機械を必要としていないため、NOとなる。ステップS2へ移行する。
特定物を変換しているか否か(ステップS2)?→NOである。特定物の変換は存在しない。従って、クレーム1は法定主題ではない(ステップS5)。
(2)事例2
クレーム2
検索結果評価方法であり以下を含む、
第1特性に基づき結果をグループへソートし、
第2特性に基づき結果をランキングし、
検索の成功を評価するためにランク付けされた結果を、マイクロプロセッサを用いて、所定の望ましい結果リストと比較する。
結論:クレーム2は法定主題に該当する(ステップS6)。
分析:特定機械に実装されているか否か(ステップS1)?→YESである。
比較ステップでは特定のプログラムされたマイクロプロセッサを必要としているからである。ステップS3へ移行する。
機械は意味のある限定をなしており、かつ、意味のない余分な解決動作以上のものであるか否か?(ステップS3)→YESである。
比較するステップは出願人により発明された方法の中心をなすものだからである。また単なる使用分野制限ではなく、意味のない余分な解決動作でもない。従って、クレーム2は法定主題に該当する(ステップS6)。
(3)事例3
クレーム3
検索結果評価方法であり以下を含む、
データベースから電子的に検索結果をダウンロードすることにより検索結果を取得し、
第1特性に基づき結果をグループへソートし、
第2特性に基づき結果をランキングし、
検索の成功を評価するためにランク付けされた結果を所定の望ましい結果リストと比較する。
結論:クレーム3は法定主題に該当しない(ステップS5)。
分析:特定機械に実装されているか否か(ステップS1)?→YESである。
検索結果を取得するステップでは、本質的にデータベースからデータをダウンロードするためにプログラムされたマイクロプロセッサを必要としているからである。ステップS3へ移行する。なお、BRIに基づけば他のステップは機械を必要としていない。
ダウンロードするために必要とされる機械は意味のある限定をなしているか、かつ、意味のない余分な解決動作以上のものであるか(ステップS3)?→NOである。ダウンロードステップは出願人により発明された方法の中心をなすものではなく、意味のない余分な解決動作だからである。ステップS2へ移行する。
特定物を変換しているか否か(ステップS2)?→NOである。特定物の変換は存在しない。従って、クレーム3は法定主題ではない(ステップS5)。
4.物のクレームについて
米国特許法が保護対象とする発明は、「方法,機械,製造物若しくは組成物」のいずれかである(米国特許法第101条)。
これらのカテゴリーに属しない場合は、米国特許法第101条の規定により拒絶される。これらのカテゴリーに属しないものとして以下が挙げられる。
(i) 信号伝送の一時的形態(伝搬電気・電磁信号)
(ii) 自然発生的な生命体
(iii) 人そのもの
(iv) 当事者間の法的契約上の合意
(v) 一連のルールにより規定されるゲーム
(vi) コンピュータプログラムそのもの
(vii) 会社
「方法」のクレームは上述したM-or-T testにより判断される。一方「物」(機械、製造物若しくは組成物)のクレームは、当該物のクレームが全体的に司法上の例外(Judicial Exception:例えば抽象的アイデア、自然法則、自然現象、思考プロセス、数学的アルゴリズム、科学原理等)に該当するか否かを判断する。
5.最高裁Bilski v. Kapposの争点
最後に、現在最高裁Bilski v. Kapposで問題となっている争点を整理しておく。主要争点は以下のとおりである。
争点1:M-or-T testは保護対象を不当に制限するか?
米国特許法第101条は新規かつ有用な方法を保護対象としている。これに対し、最高裁も「自然法則、物理現象及び抽象的アイデア」を除いて、「いかなる」新規かつ有用な方法を保護対象とし、米国特許法第101条の保護対象に制限を加えることを拒絶している。CAFCは「方法」が保護対象に該当するか否かの要件としてM-or-T testを導入したが、当該要件が保護対象を不当に制限するか否かが問題となっている。
争点2:M-or-T testは有用なビジネス方法を排除するのか?
米国特許法第273条*3は以下のとおり規定している。
第273 条 先発明者であることを理由とする侵害に対する抗弁
(3)定義
本条の適用上,用語の意味は次のとおりとする。
・・・
(3) 「方法(method)」とは,ビジネスを行う又はビジネスを運営する方法をいう。
米国特許法第273条はビジネス方法特許を認める一方で、ビジネス方法に対する先使用権を認めるために議会が1999年に制定した規定である。CAFCが提示したM-or-T testは多くの有用なビジネス方法を特許法の保護対象から排除するものであり、これが議会の立法趣旨に反するか否かが問題となる。
2009年8月の時点で約40もの法定助言者意見書(Amicus Curiae Brief)が提出されており本事件に対する関心の高さが伺える。上述したとおり、第1回審理は2009年11月であり、結論が出るのは来年春頃と思われる。
以上
【関連事項】
USPTOの発表資料は下記URLより取得できます。
http://www.uspto.gov/web/offices/com/speeches/20090827_interim_el.htm
【注釈】
*1 米国特許法第101条は以下のとおり規定している。
第101条
新規かつ有用な方法,機械,製造物若しくは組成物,又はそれについての新規かつ有用な改良を発明又は発見した者は,本法の定める条件及び要件に従って,それについての特許を取得することができる。
特許庁HP
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/s_sonota/fips/mokuji.htm
参照。
*2 In re Bilski 545 F.3d 945 (Fed. Cir. 2008)
詳細はhttp://www.knpt.com/contents/cafc/2008.11/2008.11.html
を参照。
*3 米国特許法第273条の一部は以下のとおり。
35 U.S.C. 273 Defense to infringement based on earlier inventor.
(a)
DEFINITIONS.— For purposes of this section—
・・・
(3)
the term “method” means a method of doing or conducting business;
前掲特許庁HP