朝鮮中央会館事件最高裁判決を受け思うこと - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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朝鮮中央会館事件最高裁判決を受け思うこと

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発表 実務に役立つ判例紹介
東京都が、平成14年度まで課税していなかった朝鮮中央会館の土地建物に
対する固定資産税を平成15年度より課税処分をしたことの是否を争った
調整中央会館事件の最高裁判決が8月12日に下された。
判決は、地裁から一貫して都側の全面勝訴。
挑戦中央会館の建物のうち、ビザ発給業務に関する部分を除き、固定資産税の
減免自由となる公益のための施設としてではなく、在日朝鮮人の権利擁護団体
としての活動のために使用されている施設と認定された。
判決の内容は地裁から変わりがないので、東京地裁平成19年7月20日判決
(TAINZコードZ999-8184)の判示を紹介しよう。

1 都税条例134条1項2号は、固定資産税の減免ができる固定資産の
1つとして「公益のために直接専用する固定資産」を掲げている。
「公益のために直接専用する固定資産」とは「公益のため」すなわち、
不特定多数の者の利益のため、「直接」「専用する」固定資産、すなわち、
不特定多数の者の「直接の使用又は利用に専ら供されている」固定資産を指し、
そのような固定資産については、公益性が明白であるから、減免の対象
とするという趣旨であり、たとえば公益性のある団体の所有する固定資産で
あっても、それが特定の者によってのみ使用されているようなものは
公益性の有無や程度が明白とはいえないので、これには含まないと解する
のが相当である。
2 本件各不動産が不特定多数の者の直接の使用又は利用に専ら供されている
ということは到底できず、他に、本件各不動産が、不特定多数の者の利益の
ため、不特定多数の者の直接の使用又は利用に専ら供されている固定資産
であると認めるに足りる証拠はないから、本件各不動産は、都税条例
134条1項2号の「公益のために直接専用する固定資産」に該当しない
から、同号該当を理由に本件各減免不許可処分の違法をいう原告の主張は
理由がない。
3 都税条例134条1項4号は、公益上の理由により固定資産税の減免を
行う固定資産については、同項2号に掲げるものを除き、知事が公益上の
理由の有無や程度を判断して規則に定めるべきことを委任した規定と
解されるところ、これを受けた本件規則31条は、1項において「特別の
事情があると認められる固定資産」を掲げるとともに、2項において、
当該固定資産に対する固定資産税の減免は、「当該事情を考慮して知事の
認めるところにより減免する。」と定めている。
そして、何が1項にいう「特別の事情」に当たるかは本件規則に定めて
いないところ、そもそも公益上の理由は、その性質上、一般的な類型化は
困難であり、その有無や程度の判断は、最終的には固定資産税の減免によって
その時々における一定の行政上の目的を達成しようとする課税庁の合理的な
裁量によらざるを得ないことから、本件規則は、あらかじめこれに該当する
固定資産を類型的に列挙するのではなく、個々具体の減免申請に対する
知事による個別の合理的な裁量判断に委ねたものと解される。
4 本件基準は、このような課税庁の裁量権行使の基準を行政の内部において
定めたものと位置付けることができるものであり、その内容自体に格別
不合理な点は認められないから、課税庁が、本件基準〔(ア)課税することが
建前であるが、社会通念上、課税することが明らかに不合理であり、かつ、
近い将来において、非課税の立法措置がとられる可能性の強いもの、
(イ)固定資産の使用実体等が、都の行政に著しく寄与すると認められ、
減免措置に対して、都民の合意が容易に得られるもの〕のいずれの事情も
認められない固定資産について、本件規則31条1項の「特別の事情があると
認められる固定資産」に該当しないと判断することは、上記裁量権の行使
として是認することができ、裁量権の逸脱濫用に当たらないというべきである。
5 被告らの主張では、旅券発給業務の用に直接供している部分について
「特別の事情」を認めた理由は必ずしも判然としないが、平成15年度
減免処分に係る東京都主税局長のりん議回答書に添付された「りん議回答の
起案理由(乙12)」には、旅券発給業務について都民の合意が容易に得られる
ものと判断される旨の記載があることからすると、本件基準 の(イ)の
事情に該当することを理由とするものと解される。
6 本件各不動産のうち旅券発給業務の用に直接供している部分以外の
部分について、本件基準の(ア)及び(イ)のいずれの事情も認められず、
本件規則31条1項の「特別の事情があると認められる固定資産」に該当
しないとした処分行政庁の判断に裁量権を逸脱濫用した違法は認められない
から、本件各不動産が全体として同条項に該当することを理由に本件
各減免不許可処分の違法をいう原告の主張は理由がない。


本件は、東京地裁平成19年7月20日判決を経て、東京高裁平成20年
4月23日判決で控訴棄却、最高裁平成21年8月12日判決で上告不受理
で東京都全面勝訴が確定した。

それまで課税が減免されていた施設に大きな変更が加えられていないにも
かかわらず、突然課税されたことから起きたこの事件を他人事と考える
ことはできない。
このようなケースは多々あり、古くは最高裁昭和33年3月28日判決
(パチンコ球遊器事件)、近年でも固定資産税の土地の評価額がそれまでの
地価の2~3割で評価されていたものが、平成6年の評価替えにおいて
突然7割評価とされたことを巡る最高裁平成15年6月26日判決、
それまで一時所得であるとされていた課税実務を通達の変更のみで
給与所得とすることとされたことを巡る最高裁平成17年1月25日判決
(ストックオプション事件)など、枚挙に暇がない。

共通するのは、法律ではなく、通達や課税実務が変更されたことによる
突然の課税処分である。
ただ、最高裁平成15年6月26日判決以外の多くの判決が、当該変更が、
法が求める趣旨への正しい是正であることを理由に課税庁勝訴判決である。
確かに、今日紹介した朝鮮中央会館事件についても、それまでの課税実務が
課税の減免対象ではない施設を誤って減免対象としてきたことを是正した
ケースであり、判決を支持するところであるが、突然の課税処分についての
課税当局の説明不足が訴訟にまで至る原因ではないのかと考えるところだ。

租税法律主義の重要な機能として予測可能性の確保が挙げられる。
特に、国民に不利な取扱いの変更については、十分に説明責任を果たした上で、
適正な処理を行うことが要求されるところである。

近年の税務訴訟の勝訴率の急騰は、課税庁側のムリな課税の結果ではないかと
考えているところである。
かつては、「税法も法ではないのか」と疑いたくなるほど、法曹界の人間は
税法を知らなかったが、税法がロースクールで選択必修科目に採用され、
司法試験の選択科目にも採用された現在では、弁護士も裁判官も税法を
きっちり理解している方が増えつつある。
今後は間違いなく増加してくるであろう。
予測可能性が確保できなければ、必然的に訴訟が増加し、その勝訴率の
上昇も容易に予想できてしまうのだ。

税務訴訟の勝訴率が高まることは実に不幸なことだ。
税務署では解決できず、審判所でも解決できず、裁判所でようやく不当な
課税から開放されるということは、税理士や弁護士に支払う無駄な経費と
貴重な時間が無駄に浪費されてしまう。

裁判員制度が導入され、裁判制度が注目される中、税務訴訟に潜む問題の
根の深さを改めて感じているところです。