和歌山毒カレー、最高裁判決 (1) - 刑事事件・犯罪全般 - 専門家プロファイル

羽柴 駿
番町法律事務所 
東京都
弁護士

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対象:刑事事件・犯罪

閲覧数順 2024年04月23日更新

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和歌山毒カレー、最高裁判決 (1)

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連載「新・刑事法廷」

上告棄却判決



 最高裁判所第3小法廷は4月21日、いわゆる和歌山毒カレー事件で起訴された被告人女性(47歳)に対し、無罪主張を退け、一審・二審の死刑判決を維持する上告棄却判決を言い渡しました。

 その理由として判決は、
(1)事件に使用されたヒ素と被告人宅から検出されたヒ素との特徴が同じであること
(2)被告人の毛髪に高濃度のヒ素が付着していたこと
(3)事件当時、カレー鍋にヒ素を混入できる状況にあったのは被告人だけであること
等を指摘し、被告人が犯人であることに合理的疑いを差し挟む余地はないと認定しました。また、この事件では被告人がこのような大量殺人を犯す動機が解明されていないことは認めたうえで、そのことは被告人を犯人とする認定を左右しないとしています。

 被告人と犯行とを結びつける直接証拠がないこの事件で、いわゆる状況証拠を積み重ねることで犯人と認定できるかどうかが注目されていましたが、この最高裁判決はそのような手法による有罪認定を実際に示したものとして、今後の同種事件の審理に重要な影響を与えるでしょう。


何が結論を分けたのか



 私自身はこの事件を担当してはおらず、取り調べられた多数の証拠の具体的内容を知る者でもありません。事件の経過や判決内容は新聞・テレビなどの報道で知るだけなので、今回の判決や一・二審判決の適否についてコメント出来る立場にありません。しかし、そのような立場からも言えることがあります。

まず第一に、今回の判決を言い渡したのと同じ第3小法廷は、つい先日、満員電車内の痴漢事件について、被告人が犯人かどうか合理的疑いが残るとして、一・二審の有罪判決を破棄し無罪判決を言い渡しています。しかしこの無罪判決は5人の裁判官の中で意見が分かれ、3対2というきわどい小差での判決でした。

その同じ第3小法廷が、この毒カレー事件については5人全員一致で有罪と認定しています。どちらの事件も被告人・弁護人が無罪を主張し、一審・二審と激しく争ってきていましたが、結論は反対になりました。直接証拠がないという点では毒カレー事件のほうが有罪認定が難しいともいえるのですが、結論が反対となったのが何故だったのか、刑事弁護に携わる者として興味があります。

毒カレー事件の被告人は、問題となったカレーへのヒ素混入事件だけではなく、それ以前の複数の事件(殺人未遂、保険金詐欺など)でも犯人として起訴されており、それらの事件についても判決は有罪と認めています。そして、それらの事件ではヒ素や類似の毒物が使用されています。これはあくまで一つの推測ですが、被告人が以前にこのような別の事件を起こし、そこでヒ素や類似毒物を使用しているという事実認定が、毒カレー事件の有罪判断に影響を与えているのかもしれません。

(次回へ続く)