希望退職制度(5) - 社会保険労務士業務 - 専門家プロファイル

本田 和盛
あした葉経営労務研究所 代表
千葉県
経営コンサルタント

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対象:人事労務・組織

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希望退職制度(5)

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雇用調整・リストラ

希望退職者の募集


 制度設計と対象者の選定が終われば、実際に募集を開始することになります。基本的に本人の希望を受け入れて、応募を承諾するという考え方で募集を行なうのであれば、希望退職制度実施の発表から募集開始まで、社員が熟考する期間をとったほうがいいかもしれません。しかし、もう既に退職勧奨を行なう対象者が決まっているのであれば、実施発表から募集開始・締切りまでを短期間で進めるべきです。

 退職勧奨する場合でも基本的には社員の合意に基づく退職ですから、社員が拒否した場合は応募を強制することはできません。考える時間がありすぎると決断を鈍らせる原因になりかねません。できるだけ短期間に速やかに個別の退職勧奨を行ない、当該社員の合意を得ることが必要です。

 また面接は、退職勧奨を予定している者だけでなく、希望退職の募集対象者全員に行って下さい。その中で、退職して貰いたい社員にはそれなりの説得を試み、会社にとって不可欠の人材に対しては、十分に会社の評価を伝え、応募しないように説得することが必要です。また会社にとって不可欠な人材には、優遇措置を適用しない旨を伝えておくことも、無用のトラブルを防止する点から重要となります。

面接のポイント



 では、面接(退職勧奨)をだれが行なうのかということですが、これはやはり事業部門の責任者が行なうべきです。退職勧奨を受けた社員からしてみれば、人事からでは素直に受け入れることができません。ところが事業部門の責任者からであれば、業務再構築を行なったうえでの判断であると理解することができ、社員の納得性も高まります。

 また、事業部門の責任者から選定された以上、この会社に残っても自分の担当する業務は無いと考えられるため、きっぱりと気持ちを切り替えさせる効果もあります。事業部門の責任者にとって退職勧奨を行なう場面は最もハードな業務の一つになりますが、社員に痛みの伴う制度の実施ですから、責任者として覚悟を決めて臨んでもらいたいと思います。

 退職勧奨を1回で受け入れない場合は、人事部長(または役員)が同席する方がよいと思います。今の上司の好き嫌いで評価が低いのではなく、会社としての評価であることを暗に分からせる効果があります。

 忘れてはいけないことは、面接は、退職するか、会社に残るかの選択をしてもらう場であるということです。退職を強要してはいけません。多人数で取り囲んで退職を迫るのは、社会的相当性を逸脱し不法行為となります。

面接(退職勧奨)マニュアルの作成


 面接は、面接を受ける社員だけでなく、面接を実施する上司にとってもプレッシャーのかかる仕事です。緊張のあまり面接で失敗しないように、面接マニュアルを作成し、会社の状況・面接の趣旨等を管理職に説明し、想定質問集をもとに面接ロール・プレイイング研修を実施します。

 また面接を実施する管理職を含めた社員全体に対するメンタルヘルスケアも重要です。

<面接での想定質問例>
以下のような質問に対して、万全の応酬話法を用意する必要があります。

(1)なぜ、私が退職しないといけないのですか?
(2)退職しないと言ったら、どうなります?
(3)私の前に、部長あなたが辞めるべきだ。
(4)来年娘が結婚します。それまでこの会社に置いておいてください。
(5)地域ユニオンに加入して戦うぞ。
(6)弁護士に相談します。

モラールダウンの回避


 希望退職制度というのは、有能な社員の流出、組織のモラールダウンなど様々なリスクが伴います。応募した社員は将来への不安を抱えながら就職活動もしくは自営独立に向けて奔走しなければなりません。また、残った社員にとっても業務量の増加による負担だけでなく、「次もあるのではないか」、「この先会社はどうなるのか」といった不安を抱えることになります。

 1回の希望退職者募集で予定の人員数が集まらなかった場合、追加の募集も検討しなければなりません。また希望退職の募集完了後も応募者にはアウトプレースメント会社による就職活動の支援を提供するなどのフォローを考えておく必要があります。一方在職者には、希望退職者募集の終結宣言を社長が行ない不安の解消に努めなければなりません。

 本コラムでは大企業における社員の希望を優先した希望退職制度ではなく、中小企業の経営危機を乗り切るための緊急措置としての希望退職制度について述べました。全ての希望退職制度に当てはめることはできませんが、ひとつの考え方として参考にしていただきたいと思います。

お願い


 企業で働く労働者は、なによりも雇用の安定を会社に期待しており、安易な人員削減は許されません。人に手をつけることは、最後の最後です。できるだけ労働者の雇用維持を図って頂くようお願い致します。

 ただし会社存続のために雇用調整をせざるを得なくなった場合は、躊躇してはなりません。会社倒産となると、社員だけでなく、関係取引先にも多大な迷惑をかけることになります。経営者としての決断力が求められます。

なお、弊「凄腕事務所」では、御社の実情に併せた希望退職制度の設計から面接マニュアルの作成、管理職教育、メンタルヘルスケアまでトータルにサポート致します。一度、お問い合わせ下さい。



<執筆者>あした葉経営労務研究所 代表 
     凄腕社労士 本田和盛
<執筆協力>あした葉経営労務研究所 客員研究員 
      中村伸一(アンジェスMG株式会社)