始末書の提出 - 社会保険労務士業務 - 専門家プロファイル

本田 和盛
あした葉経営労務研究所 代表
千葉県
経営コンサルタント

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対象:人事労務・組織

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始末書の提出

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労働契約 懲戒処分

始末書とは


始末書とは、一般に企業秩序違反行為をした者がその行為について謝罪するとともに、今後同様の行為を繰り返さないことを誓約する意思表示を行うものとされています。通常、将来を戒める懲戒処分である「譴責」に付随して提出を求めることが多いようです。この始末書の提出命令に社員が従わなかった場合、どう対応すべきかが、実務上問題となります。


始末書の提出を強制できるか?


まず、始末書の提出を強制できるかですが、懲戒処分に始末書の提出を求め、社員が任意でそれに応じることは違法ではありません。しかし本人の意思がない場合に強制する、または強制しないまでも提出しなかった事に対してなんらかの処分を行うことは、始末書の趣旨と異なってしまいます。また、過去の裁判においてもその多くは、個人の意思や良心の自由に関わる問題として認めていません。
たとえば、丸住製紙事件(高松高判昭46.2.25)では、「現在の法制度のもとでは個人の意思の自由は最大限に尊重せられるべきであり、始末書の提出の強制は右の法理念に反する」と判示されました。


始末書の不提出を理由として処分できるか?


 始末書の提出命令は懲戒処分を実施するためになされるものであり、業務命令ではありません。業務命令ではないので、業務命令違反として懲戒処分することはできません。
 判例でも、「始末書の提出命令は、懲戒処分を実施するために発せられる命令であって、使用者の業務命令の範疇に属するものとはいい難い」(中央タクシー事件・徳島地判平10.10.6)とされ、先の丸住製紙事件でも、「始末書の提出命令は業務上の指示命令(懲戒処分を発動する要件となるべき業務上の指示命令)に該当しないものと解するのが相当である」と判示されています。


顛末書・経過報告書との違い


 顛末書・経過報告書(違反行為の顚末や事実経過を報告させるだけの書類)などは、それが業務に関する事実関係を報告させるものであれば、会社は業務命令の一環として、これらの報告書の提出を命令することができます。
 また、名目が、顛末書・経過報告書であっても、報告書内に反省文や謝罪文を加える事を強制した場合は、始末書同様に良心の自由に関わる問題となりますので、許されません。


実務ポイント


 このような場合、実務上は、上記の「顛末書」、「経過報告書」を提出させた上で、労働者に違反行為を行ったことを認めさせ、今後その行為を繰り返し行った場合に懲戒処分を行う旨を労働者に伝え、改善されない場合に懲戒処分を行うことになります。
 「顛末書」、「経過報告書」を提出させた際に、きちんと指導を行うことで、「顛末書」、「経過報告書」がイエローカードとなり、それが累積した時点で懲戒事由(レッドカード)となります。


始末書不提出が懲戒処分該当事由になるとした判例


 始末書提出を業務命令により強制することはできず、始末書不提出を理由として懲戒処分とすることはできないのが学説・裁判例ですが、一方で、始末書を提出しないことが懲戒処分の対象となると判断した裁判例もあります。
 ただしこの場合でも、社員の人格を無視したものや、良心の自由を不当に制限するものは認められない点は留意しておく必要があります。
以下参考判例として、「柴田女子高校事件」と「西福岡自動車学校事件」を上げておきます。
  

柴田女子高校事件 (青森地判弘前支部平12.3.31)


「労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労働提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負う一方、使用者は、始末書の提出によって企業秩序の回復を図ることができるから、始末書の提出を強制する行為が、労働者の人格を無視し、意思決定ないし良心の自由を不当に制限するものでない限り、使用者は、非違行為をなした労働者に対し、謝罪の意思又は反省の意を表明する趣旨の始末書の提出を命ずることができ、労働者が正当な理由なくこれに従わない場合には、これを理由として懲戒処分をすることができる」と判示したが、就業規則に定められた非違行為はなかったとして処分は許されなかった。

西福岡自動車学校事件(福岡地判平7.9.20)


「労働者は労働契約上企業秩序維持に協力する一般的義務を負うものであるから、始末書等の提出を強制する行為が労働者の人格を無視し、意思決定ないし良心の自由を不当に制限するものでない限り、使用者は非違行為をなした労働者に対し、謝罪の意思を表明する内容を含む始末書等の提出を命じることができ、労働者が正当な理由なくこれに従わない場合には、これを理由として懲戒処分をすることもできると解するのが相当である」と判示したが、判決自体は不当労働行為として無効とされた。

執筆:あした葉経営労務研究所 代表                   凄腕社労士 本田和盛