- 野平 史彦
- 株式会社野平都市建築研究所 代表取締役
- 千葉県
- 建築家
対象:住宅設計・構造
人が家の中で生活していると、様々な空気汚染物質が発生します。人の体からは炭酸ガス、水蒸気、臭いが発生し、炊事や喫煙その他の生活行動に伴って、煙や塵埃、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素酸化物、臭気といった様々な物質が発生し室内の空気を汚します。
しかし、気密性の低い家では室内の空気は容易に外気と入れ替わっていたので、特に室内空気の汚染に気を遣うことはありませんでした。そうこうするうちに住宅の気密性は徐々に高まってゆき、「採暖」から「暖房」へのステップアップを図る訳ですが、日本の家はこの「暖房」を始めた時からおかしくなったのです。そして、それは決して暖房そのもののせいではありません。
日本の家の大きな過ちは、暖房を始めてからも相変わらず「空気は自然に出ていってしまうもの」という感覚から抜け出せなかったこと、即ち''「換気」という認識をまるで持たずに暖房を始めてしまったところにあるのです。''西欧の煙突に相当する換気装置が何もないまま家の中でストーブを焚き始めたのです。
それこそ、北海道のような寒冷地では本格的な煙突付きのストーブでしたが、関東以西の比較的温暖な地域では殆どが直火を焚く開放式のストーブが使用されています。開放式のストーブは当然、室内の空気中の酸素を使って燃焼し、二酸化炭素と水蒸気を多量に発生します。
即ち、隙間風に勝る空気汚染物質が発生することになった訳です。開放式のストーブは室内の酸素を消費するのですから酸欠の危険があり、多量に発生する二酸化炭素は喘息をひき起こし、水蒸気は自慢のアルミサッシュの窓に結露してびしょびしょになる始末。
しかも家全体を暖めるに足る程の気密性はまだ獲得していない為、そんな大それたことは考えず、台所から食堂、居間等の家族が集まる部屋に限定されていました。
この個別暖房は家の中に暖房室と非暖房室を作り、暖房室の湿気を多く含んだ暖かい空気が非暖房室の冷たい壁に触れてまた結露を起し、結露はカビを繁殖させ、カビはダニを引き寄せました。換気のない部屋の中で無数の塵と共にカビの胞子やダニの死骸、糞等が飛び交い、小児喘息やアトピー性皮膚炎などの問題を発生させました。この辺りで家が原因の病気ということでシックハウス症候群という言葉が使われ始めます。
また、暖房室と非暖房室との大きな温度差は、例えばストーブのある居間からトイレに行く時のあのヒャッとする急激な温度変化が高血圧の老人に冷ショックによる脳卒中などの新たな原因を作ることにもなったのです。
こうして日本の家は「開く」家から「閉じる」気密化への方向へ進みながら、「換気」という私達の生命と健康を守る最も大切なことをなおざりにしたまま暖房を始めてしまったために極めて不快で不健康な生活環境を作り上げてしまいました。
しかし、それでもなお換気の問題が取り上げられることはなく、住宅の「気密化」こそが不健康の原因であると思われ続けていたのです。
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