「安さは誰かが代償を負っている」という話で考えてしまったこと
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あるところで「安さは必ず誰かが代償を負っている」という言葉を目にしました。
安価なものには必ずそれなりの理由があり、誰かがどこかで代償を負っているのだという話でした。多くは末端の製造現場や生産者、その他の弱者であり、商品やサービスそのものの品質や環境負荷であり、消費者が安いものを求めれば求めるほど、その代償は大きくなっていくのだということでした。
私自身も、普通の庶民感覚で安くて良いものを求めますが、その一方で、最近は適正価格というものを考えるようになってきました。本来あるべき価値を逸脱した価格で提供されるものがあるせいで、この言葉のように「代償を負っている」と思える例を目にすることが増えてきたからです。
技術は上がっているのに価格は叩かれ、本来の価値との差が広がってきていたり、大資本の参入で価格破壊され、事業が立ち行かなくなったりという例を聞きます。
「競争力がなければ淘汰されて当然」という考え方はあるでしょうが、大きな資金と人員である日突然参入されては絶対に勝負になりません。
現在のように成長市場が少ない中で、限られた市場での取り合いとなれば、どうしても「力の強い者が勝つ」という確率が高くなります。勝者は勝ち続け、敗者は市場から退場させられます。格差の広がりというのは、こういうところにも問題があるのでしょう。
ここで考えてしまったのは、会社の評価制度や給与体系でも同じような話があることです。
先日もある会社で、「自分はこんなに頑張っていて貢献もしているのに、全然給料が上がらない」「もうこんな会社には見切りをつけて、転職したいと思っている」という社員がいました。頑張っているのは確かですし、そう言いたい気持ちもわからなくはありません。
ただ、この会社全体の業績はあまり思わしくありません。数字を見る限りでは、昇給原資はほとんど見込めそうにない状況です。そうなったとき、それでも誰かを昇給させようとすれば、別の誰かが代償を負わなければなりません。原資が限られていれば当然そうなってしまいます。
人事制度の中で、評価制度や給与体系を検討するとき、「やった人、能力のある人、結果を出した人が相応に評価されるように」と言う話はよく出てきます。そのこと自体にまったく異論はありませんが、そういう意見を言う人で、「業績が伸びない限り、誰かの給料を積み増せば、他の誰かは給料を減らさなければならない」ということを理解している人は、意外に少ないと感じます。
「このくらいの給与でなければ良い人材は取れない」などといいますが、それは給与水準の話であって、評価制度や給与体系で決められるのは、その会社での給与原資の配分の話になります。
そういう会社に限って、良い評価をされる人はいつも同じ人で、格差ばかりが拡大していたり、良い評価をされている人でも給与水準は高くない、それで結局辞めてしまったりというようなことが起こっています。
誰も代償を負わずに済ますためには、会社の給与水準を上げるしかなく、そのためには業績が上がって給与原資全体が増えなければなりません。そのことは意外に意識されていない感じがします。
悪平等があれば、それは直していかなければなりません。評価されるべき人が、相応の評価を受けられるようにしなければなりません。ただし、給与原資という枠が限られている限り、「誰かが代償を負わなければならない」ということを理解しておかなければなりません。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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