あえて「上を目指さない」というキャリアを軽蔑しない
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ある会社の技術者ですが、性格的に目立つことも。自分から先頭に立つことはあまり好まず、自己主張も少ないために、今の会社ではあまり評価されているとは言えない立場のようです。
しかし、この人と過去に一緒に仕事をしたことがあるメンバーは、持っている知識やスキルをみんな高く評価しています。
現在やっている仕事は、この人が持つ知識や経験を活かせるものでなく、世の中にはもっと力を発揮できる仕事がたくさんあるので、報酬だってもっと上げられるはずだといいます。
しかし本人は、「そういうことには興味がない」「自分のレベルはそんなに高くない」「上を目指したい気持ちはない」と言います。
周りが「こういう仕事ならできるのでは?」と投げかけると、「確かにできるけど・・・」といいながらも、「それは大したスキルではない」「自分はそんなに評価されるレベルではない」と思うそうです。
謙虚で身の程を知っているのかもしれませんし、意欲や覇気がないのかもしれません。
競争原理の企業社会の中では、こういう考え方の人は軽蔑されたり、閑職に追いやられたりしがちです。「競争志向や上昇志向がある」「人の輪の中心にいる」「自分からリードしていく」というようなタイプが、「仕事のできる人」として扱われることが多いでしょう。
しかし、「上を目指さない」というのは、そんなにダメなことなのでしょうか。
私は話を聞いていて、始めのうちは「可能性があることにはチャレンジすればよい」とか、「より良い環境を目指すべきだ」などと思っていましたが、話を聞けば聞くほど、「“上を目指さない”という考え方のままでも、十分な社会貢献や業績貢献につながっていて、それならばこういう選択もあって良いのではないか」と思いました。
そもそも、在籍している社員全員が、上昇志向と競争意欲満々で、常にそういう振る舞いを繰り広げている会社があったとしたら、経営者や管理者は組織運営に相当困りますし、好業績にはつながらないでしょう。
「2・6・2の法則」とか、「働かないアリの話」とか、組織はそんな多様なメンバー構成によって効率が保たれていることが科学的にも証明されつつあり、組織上の役割としてそれぞれに意味があることがわかってきています。
そう考えると、一見意欲がないように見える人も、仕事ができないと見られてしまう人も、それぞれ何かしらの組織上の役割を担っていて、何かしらの貢献をしていると考えられます。
中には本当に何の貢献もないような人がいるのかもしれませんが、目立たない人、意欲がないように見える人、「上を目指さない」というような人でも、本質的なところに目を向けて評価をしなければなりません。
「上を目指したくない」と言ってしまう、あまり目立たないその他大勢のように扱われてしまう人ほど、実は組織上の重要なカギの握っている人たちだということがあります。
こうやってキャリアを考えると、昇り詰めることばかりが良いキャリアとは言えないように思います。
「上を目指さない」という人が、もっと評価されてもいい場面はたくさんあるはずです。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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