大統領選では、「Change!」「We can do it!」など、国民の耳に残るキャッチフレーズを使って国民の心を捉えたオバマ大統領が就任式でどのような演説をするのか注目してみていた。しかし、実際の演説は、一度もこれらの言葉は使わず、実に現実的で、今のアメリカを直視し国民に結束を呼びかける演説であった。後から知ったが、オバマ大統領は、演説原稿を作成するに当たってスピーチライターのジョナサン・ファブロー氏(27歳)に唯一注文したことは、「Describe the moment」(この瞬間を表現してくれ)ということだったそうである。大恐慌期に就任した同じ民主党のフランクリン・ルーズベルト大統領を描いた「Defining moment」という本をオバマ氏が熱心に読んでいたことからきているようだ。
オバマ大統領は、アメリカ経済の危機的状況を素直に認め、国民が団結してこの苦難に立ち向かうように呼びかけたのである。アメリカの今までの姿勢を反省(一部の強欲な人々を痛烈に批判したことには驚いた)し、「新しい責任の時代」が来たと説いた。
この演説の内容は、アメリカだけでなく日本も含めた世界に対するメッセージでもあったのではないだろうか。日本も、この演説の内容をしっかりと聞く姿勢が求められているのではないだろうか。
ここで、演説の中で特に注目された部分を振り返ってみる。
就任演説の抜粋
「よく理解されているように、我々は危機の真っ只中にいる。米国は暴力と憎しみのネットワークと戦争中だ。経済は一部の人々の強欲と無責任の結果として、ひどく脆弱になった。同時に、難しい選択をせず、国家を新しい時代に準備してこなかった集団的な失敗でもある。家は失われ、仕事は奪われ、企業は破綻した。健康保険はコストがかかりすぎ、教育制度は多くの場所で破綻している。
これらは危機の指標だ。もっと把握しにくいのは、失われた自信や米国の衰退が必至なのではないかという恐れなどが国家に広がっているのではないかということだ。
今日我々が直面している危機は現実のものだ。短期間で解決できるものではない。しかし米国よ、これらは必ず解決できる。
今日この日、我々は恐れより希望を、争いや仲たがいより結束を選んだ結果、こうして集まった。今日この日、我々の政治を長いこと混乱させてきた不平や間違った約束、非難や、独断的な意見などの終わりを宣言するために集まった。・・・」
「・・・今日から我々は立ち上がり、ほこりを落とし米国を再生する作業を始めなくてはならない。
経済の現状は断固とした迅速な行動を求めている。新しい雇用を創造するだけでなく、成長の新しい基盤をしくために我々は行動する。」
「・・・市場が善か悪かといったことを問うてはいない。市場の力は富を生み、自由を広げる。しかし、今回の危機は、市場に対する監視の目がなければ、市場が制御不能に陥ることを思い出させた。」
「今求められているのはこうした真実に立ち返ることだ。求められているのは新しい責任の時代だ。米国民の一人ひとりが個人、国家、世界に対して義務を負うという認識だ。・・・」
「未来の世界に我々はこう宣言する。希望と善以外は何一つ生き残ることができない真冬の日に、共通の危機に瀕した都市と地方は共にそれに立ち向かった」