米国発の金融危機に端を発した世界的な景気後退を受けて、日本でも金融、
不動産、メーカーを中心に業績悪化に伴う雇用調整が急激に進んでいます。
その煽りを受けて今春卒業予定の学生たちは「内定取消」というヒドイ憂き目
に合っています。
その象徴として話題となったのがマンション分譲の大手不動産会社による内
定取消問題です。
この会社では、昨年11月、今春入社予定の学生53人の内定を取り消しま
したが、このうちの3人の学生が外部ユニオンを通して補償問題を会社と協議
しました。
その結果、会社側は内定取消について学生に謝罪することと解決金(100
万円+α)を支払うことで決着しました。
「採用内定」とは、一般に「採用される日が決まっていて、解約する権利が
留保されている労働契約(始期付解約権留保付労働契約)」と解されています。
これは「大学卒業後は間違いなく入社する旨の誓約書の提出と相まって、就
労の始期を大学卒業の直後とし、所定の採用内定取消事由に基づく解約権を留
保した労働契約した成立している」とした最高裁の判例法理の基づくものです。
(大日本印刷事件 昭和54.7)
では、採用内定が取り消された場合はどうでしょう?
採用予定者が入社の確約を得ていない段階(いわゆる「内々定」)の場合は、
労働契約が締結されているとはいえないため、採用内定の取消の通知を受けて
も労働契約の解約(解雇)ではないと考えられます。
しかし、使用者が入社を確約していた場合(内定)は、既に始期付解約権
留保付労働契約が成立しているため、原則として労働契約が解約されたものと
して「解雇」とみなされます。
したがって、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められる内定
取消事由を就業規則等に列記されていないと、使用者は立証責任を果たしたこ
とにはならなくなってしまいます。
また、今年1月19日には改正職業安定法が公布・施行され、新規学校卒業
者の採用内定取消を行おうとする事業主は、あらかじめハローワークおよび施
設の長に通知することが必要となったとともに、厚生労働大臣は、採用内定取
消の内容が、2年連続であるなど一定の事由に該当するときは、その内容を公
表することができることとなりました。
このように、内定取消は何らかの法律的制約を受けるものですので、使用者
には慎重な対応が必要となります。
まずは、就業規則をはじめとする諸規程の整備を行い、リスクヘッジ策を講じ
ることが急務であるといえるでしょう。
特定社会保険労務士 佐藤 広一