「採用のために社内制度を整備する」は本末転倒か?
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最近は多くの業界が、人手不足で苦労しています。
そのせいもあってか、私も採用活動に関する相談を受けることが増えていますが、一気に状況を変えるような特効薬がある訳ではありません。様々な細かい工夫を積み重ねながら、それをコンスタントに継続することが基本になります。
意識的に取り組んでいけば、必ず改善はできますが、それなりに時間はかかるので、瞬発力がある対策はなかなか難しいところがあります。コツコツとやり続けていくしかありません。
もう一つ、最近よく相談を受けるのは、評価制度をはじめとした人事制度、その他社内制度の見直しに関するものです。実はこちらのテーマも、特に最近は採用活動にかかわる問題意識から始まっています。
例えば、「どんな取り組みが評価され、それによってどんな処遇が得られるのか」といった人事評価にかかわることや、社員交流や組織風土改善の取り組み、福利厚生ほかの社内制度は、外から人材を迎え入れる“採用競争力”にかかわってきます。
自分が入社後にどんな待遇を得られるのかは、募集要項などの条件とともに、組織や社内制度をできるだけ確認しようとしますが、このあたりが不透明であったり、努力が報われそうになかったりするようでは、その会社に入ろうと思う人はいないでしょう。
会社の雰囲気は良いに越したことはありませんが、これも実際に会う社員の様子だけでなく、会社全体の取り組みを判断材料にしますし、福利厚生ほかの整備状況は、会社の業績推移とつながります。
これらを少しでも改善しなければ、「いい人材が採用できない」ということで、そのための取り組みを始めたいといいます。
こういう話に対して、ある会社の社長は「採用がきっかけというのは動機が不純だ」と言っていました。「自分の会社をレベルアップするためには、そんな外部からの目に左右されずに取り組むべきだ」と言います。
しかし、建前は確かにそうですが、自分たちの意志だけで、外圧なしで組織改革を進めるのは、実際にはなかなか難しいことです。取引先との関係でISOほか品質管理の認証を取ったとか、業務上の都合で顧客と勤務体系を合わせたとか、そんな話はたくさんあるでしょう。
社内整備を進めようと考えることは、そのきっかけが外圧であろうが、進めようとするだけ立派です。
問題は、この外圧があっても何も変えようとしない会社です。そういう会社は、対外的に自社の現状を隠そうとしたり、ウソをついてごまかそうとしたりします。
企業の不祥事はみんなこういうところから起こりますし、ブラック企業のように、労働環境を軽視する会社も体質は同じです。
最も素晴らしいのは、自らの意志のもとに、改善改革の取り組みを着実に積み重ねていく会社ですが、それがイヤイヤおこなった改革だったとしても、必要に迫られて仕方がなかったからだったとしても、取り組むこと自体は良いことです。
もし仮に、社内整備のきっかけが、“いい人材が欲しいから”だったとしても、それでその会社の働く環境が良くなるならば、それは悪いことではありません。
社内の制度整備や改革が進むのであれば、そのきっかけが本末転倒なものだったとしても、あえて批判する必要はないと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
組織が持っているムードは、社風、一体感など感覚的に表現されますが、その全ては人の気持ちに関わる事で、業績を左右する経営課題といえます。この視点から貴社の制度、採用、育成など人事の課題解決を専門的に支援し、強い組織作りと業績向上に貢献します。
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