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対象:企業法務
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〜精神活動が含まれる歯科治療システムの発明〜(第6回)
河野特許事務所 2009年2月16日
執筆者:弁理士 河野 登夫
3.判決の概要
3.1 本件補正の却下について
審決の判断に誤りなし,とした。
3.2 発明該当性について(対象は本件補正前の発明)
判決は発明該当性一般について以下のように判断の基本的な考え方を示した。
「特許の対象となる「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作」であり(特許法2 条1 項),一定の技術的課題の設定,その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されるものである。
したがって,人の精神活動それ自体は「発明」ではなく,特許の対象とならないといえる。しかしながら,精神活動が含まれている,又は精神活動に関連するという理由のみで「発明」に当たらないということもできない。けだし,どのような技術的手段であっても人により生み出され精神活動を含む人の活動に役立ちこれを助け,又はこれに置き換わる手段を提供するものであり,人の活動と必ず何らかの関連性を有するからである。
そうすると,請求項に何らかの技術的手段が提示されているとしても,請求項に記載された内容を全体として考察した結果,発明の本質が,精神活動それ自体に向けられている場合は特許法2 条1 項に規定する発明に該当するとはいえない。
他方,人の精神活動による行為が含まれている,又は精神活動に関連する場合であっても,発明の本質が,人の精神活動を支援する,又はこれに置き換わる技術的手段を提供するものである場合は「発明」に当たらないとしてこれを特許の対象から排除すべきものではないということができる。」
そして,本願の請求項1 の発明(本願発明1:2.2 のB)について,「これを本願発明1 について検討するに,請求項1 における「要求される歯科修復を判定する手段」,「前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段」という記載だけでは,どの範囲でコンピュータに基づくものなのか特定することができず,また「システム」という言葉の本来の意味から見ても,必ずしも,その要素として人が排除されるというものではないことから,上記「判定する手段」,「策定する手段」には,人による行為,精神活動が含まれると解することができる。さらに,そもそも,最終的に「要求される歯科修復を判定」し「治療計画を策定」するのは人であるから,本願発明1 は,少なくとも人の精神活動に関連するものであるということができる。」と認定した上で,これだけの理由では特許の対象から排除されるものではないから,さらに,本願発明1 の本質について検討する,とした。そして,
「要求される歯科修復を判定する手段」,「前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段」の技術的意義を一義的に明確に理解することができず,その結果,本願発明1 の要旨の認定については,特許請求の範囲の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとの特段の事情があるということができるから,更に明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することとする。」として,発明の詳細な説明における記載の分析を行った。この分析の結果,「請求項1 に規定された「要求される歯科修復を判定する手段」及び「前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段」には,人の行為により実現される要素が含まれ,また,本願発明1 を実施するためには,評価,判断等の精神活動も必要となるものと考えられるものの,明細書に記載された発明の目的や発明の詳細な説明に照らすと,本願発明1 は,精神活動それ自体に向けられたものとはいい難く,全体としてみると,むしろ「データベースを備えるネットワークサーバ」「通信ネットワーク」「歯科治療室に設置されたコンピュータ」及び「画像表示と処理ができる装置」とを備え,コンピュータに基づいて機能する,歯科治療を支援するための技術的手段を提供するものと理解することができる。
したがって,本願発明1 は「自然法則を利用した技術的思想の創作」に当たるものということができ,本願発明1 が特許法2 条1 項で定義される「発明」に該当しないとした審決の判断は是認することができない。」との結論を導出した。
(第7回に続く)